三面川 2002.11.6

1.ムーンライトえちごで三面川へ

「川を遡るサケを見てみたい」という一心で、単独で越後村上は三面川に向かった。23時09分新宿発のムーンライトえちごに乗ると、終着駅が村上だ。明日はお目にかかれるであろうサケの姿を思い描きながら、窮屈なボックスシートに体を横たえた。

翌朝6時、村上に到着。天気は晴れ。冬将軍の到来で、とても寒い朝。みちのくの静かな夜明け。

川下り開始予定地の三面ダムまではバスで行く。三面ダム行始発便は、ここ村上駅からではなく、6時38分村上営業所発。駅の改札で場所を聞き、約10分の道のりを歩いて進んだ。

バスは定刻に出発。私の他に乗客はない。村上市街を離れたバスは、広い田園地帯を抜け、布部橋を渡り右折し三面川にそって進む。雑誌「カヌーライフ 26号」に三面川紀行が掲載されており、バスの中でそのコピーを取り出し読み返す。出発してから30分、三面発電所で下車。

いざ川へ!と、勇んでバスを降りたものの、バス停はうっそうとした杉木立の中にあり、川が見えない。道路の下は急な斜面であり、ここから川に降りることは不可能。不安がよぎる。

「とにかく川を見なければ・・・」と道路を歩き、20メートル先、三面橋の中心まで進む。どこからカヌーを始めようかとぐるりと見渡すが、近くに適当な場所はない。「どうしようここまで来たのに」、「どこかに降りられる場所があるはずだ」と、もう一度目を凝らす。すると100メートルほど下流左岸に農道があり、川にアプローチできそうだ。カヌーライフ一行のスタート地点もここだろう。すぐさまバス停に戻り荷物を背負い、杉木立を回り込み田んぼのあぜ道に踏み込んだ。携帯が鳴った。「おはよう」と娘の声がはずむ。

河原にたどりつき、カヌーの組み立に掛かる。アルミフレームが凍るように冷たく、5秒と握り続けることがでない。上手く組み立てられない。間違ったと思って一度繋いだポールを外してみたがどうもおかしい。やっぱり最初から間違っていなかったのだ。なんてことを繰り返しながらも、何とか準備が完了。家から持参していたおにぎりを頬張った。いよいよ出発だ。


三面橋からの眺め。左側、杉木立の先がスタート地点

 

2.ヒヤヒヤ 冬の単独行

カヌーを押えて水の中に踏み込む。水深が浅く、かつあちこちに飛び石があり、なかなか乗り込むことができない。一歩一歩と、川のほぼ中央まで進んだところでやっと乗船。いよいよスタートだ。

流れにカヌーを乗せる。流れが速い。瀬に差し掛かる。底を擦るかも知れないが問題ないだろう。そのまま突入すると、ドスドスとカヌーの底が岩につかえて停止した。パドルを底に突き刺し、腰を浮かせてカヌーを動かす。速い流れに押されバランスを失いカヌーが大きく傾き、一瞬ひやりとしたが、やっとのことで開放された。

こんな寒空の下で沈したら大変だ。その瞬間にツーリングは中止だ。今スタートしたばかり。5分で終わりなんてあってはならない。パドルを握る手に力がこもる。右岸にそびえる山並みを見上げる余裕などない。直に次の瀬だ。

流れが右側に集中し、白く波立つ瀬のすぐ先で、頭を出した小さな岩により、流れが二手に分かれる。最初の白波へは、中央やや左寄りからまっすぐに入り、通過したら直ちに右を強くパドリングし、岩の左側を通過する。間違いなくこれが正しいルート。無事通過を確信して突入。

白波の部分を通過。予定どおり右パドルで左に向ける。ここまでは完璧だった。が、この後は大苦戦。強い流れに押され、そのままカヌーの横っ腹が突き出た岩に張り付いて、身動きが取れなくなってしまった。岩の上に手をおきカヌーを突き放し、脱出しようと力をこめるが、びくともしない。今度はカヌーを揺らしてみるが逆効果。コックピット内へ多量の水が流れ込んできた。

これは既に沈だ。脱出することだけ考えよう。とにかく怪我さえしなければ良しとしよう。思い切ってコックピットから抜け出し、カヌーが張り付いている岩に飛び乗った。上手くいった!

狭い岩の上で、張り付いたカヌーを引き上げる。カヌー内にたまった水が右に左に異動しぐらぐらする。ゆっくりと体を反転させて、岩の下流側にカヌーを置き、再度乗り込んだ。正に危機一髪。何とか助かった。すぐ下の瀞場の小さな滝の流れ込む場所に上陸し、水抜きをした。


最初の瀬を通過後。この先に次の瀬がある。

再ろスタートして間もなく、鷲見橋に差し掛かる。この橋は現在改修工事中。組まれた足場に多くの作業員がいる。橋の先は右に蛇行し、その先は瀬だ。こんな大勢いるとこで岩沈でもしようものなら大変な騒ぎになりかねない。慎重に慎重に橋をくぐりぬける。瀬は危険を感じるようなものではなかったので、そのまま突入。だがここも予想以上にがゴツゴツしていて、グラグラと船体が左右に揺れた。今日3度目のヒヤリだ。

この直後から浸水がひどくなってきた。ものすごい勢いで水がたまってくる。すぐにお尻の辺りまで水没し、雨合羽越しにも冷たさが伝わってくる。水を抜いてもすぐにたまる。これはただ事ではない。それでも、何とかなるさ、水遊びは濡れて当然。川下りを続行した。

 

3.頭首工、布部のヤナを経て布部橋へ

千縄の頭首工に差し掛かる。左岸から川の約半分までせり出した堰だ。右からポテージしようと上陸。下見したところカヌーで潜り抜けても問題はなさそうだ。再乗艇し真ん中からゲートを通過した。

やがて目の前に高さ1メートルほどの、石が積み上げられた壁が立ちはだかる。布部のヤナ場だ。カヌーを砂利の壁の上に引き上げ、裏返して周辺の下見に行く。シーズンオフでヤナは取り外されていた。本来ヤナがある場所は、落差1メートルほどの激しい落ち込み。カヌーで行くのは無理。担いで砂利の壁を越すよりほかない。


引き上げたカヌー


布部のヤナ場の落ち込み

カヌーに戻ってみると、底の大きな穴に気づく。ちょうどお尻の下あたり、タテに10センチほど、一直線に裂けている。鷲見橋の下流でところでやったに違いない。裂け目はここだけでなく、この前後約50センチが断続的に裂けている。「こりゃぁだめじゃ。」一気に力が抜けてしまった。残念だが今日のカヌーはこれでおしまい。9時40分。残っていたおにぎりを食べた。水浸しだった。この後、重い水舟を漕ぎ、約1キロ下流の布部橋で上陸した。


先に見えるのが布部橋

 

4.サケを求めて

カヌーを片付けてタクシーを呼び、村上市内イヨボヤ会館へ向かう。どうしてもサケを見たい。会館内の種川の観察施設で、ガラス越しにサケの営みを観察する。オスがメスに対して、さかんに産卵を促しているので、今にも始まるのではないかと、約1時間粘ってみたが、かなわなかった。

会館事務所で無料のレンタサイクルを借り走り回る。サケを取るためにウライが仕掛けられている。ウライの下側に、海から戻ってきたサケが次々に姿を現すが、ことごとくウライの檻に捕らえられていく。一尾たりともウライより上流に遡ることはできない。カヌーから遡上するサケを眺めることなどそもそもかなわぬ夢だったのだ。

ウライの脇の水産試験場を訪ねる。たくさん並べられたサケのわきに、バケツに入れられた70センチほどのサケが1尾300円で売られていた。それなりの訳あっての値段だろうが、悲しい気持ちがこみあげて来た。

ホーム