出羽三山詣 2024.7.13〜14 

数年前から取り組んでいる「奥の細道」を辿る旅のクライマックスの一つ、羽黒山、月山、湯殿山からなる出羽三山を訪れました。

出羽三山は古くからの東北を代表する聖地。おおよそ1400年前に開山したと言われる羽黒山、そこからはじまる出羽三山巡りは、江戸時代に「生まれかわりの旅」として庶民の間で広がりました。羽黒山が現世、月山が前世、湯殿山が来世という三世の浄土を表すとされていて、羽黒山から入り、月山で死とよみがえりの修行を行い、湯殿山で再生、生まれかわります。

 

1.羽黒山

前夜のうちに東京を出発、車中泊して朝8時に羽黒山の入り口駐車場に到着。いよいよ出羽三山詣の始まりです。

  

 

門を抜け坂道を下り、祓川(はらいがわ)にかかる神橋(しんきょう)を渡ると、右手に須賀の滝が見えてきます。更に進むと、国の天然記念物に指定されている爺杉(じじすぎ)、国宝・羽黒山五重塔と続けて現れ、最初っから見応えたっぷりです。爺杉は樹齢1000年、五重塔は平将門が創建したものを南北朝時代に再建されたものです。この後は急な上り坂。一の坂、二の坂、三の坂と、石の階段を汗だくになりながら登りました。

   

 

二の坂と三の坂の間に芭蕉塚があります。享保15年(1730年)に建立された塚で、『奥の細道』に掲載されている「涼しさやほの三か月の羽黒山」の句にちなみ、三日月塚と称されています。芭蕉が奥の細道を旅したのが元禄2年(1689年)ですので、訪れてわずか40年後に建立されたということに驚かされます。

   

 

やっとのことで山頂にたどり着くと、三神合祭殿に迎えられます。冬の間は積雪のため月山・湯殿山は登拝できないため、羽黒山に三神を祀ると伝えられています。高さ28m、厚さ約2.1mの茅葺屋根は東北随一のj規模を誇り、平成12年に国の重要文化財に指定されています。祭殿の前にある池にアカショウビンが来るそうで、巨大な望遠レンズを搭載したカメラの砲列が取り囲んでいました。野鳥大好きの私も興味津々、しばし赤い鳥の訪れを待ちましたが、出会いは叶いませんでした。一度来たら3時間ぐらい戻ってこないそうで、ちょうど去った後だったようです。

  

 

山頂に芭蕉像と句碑が並んで建てられています。句碑には、奥の細道に記されている三句、右から「涼しさやほの三か月の羽黒山」、「語られぬ湯殿にぬらす袂かな」、「雲の峰幾つ崩て月の山」です。

  

 

2.月山

7月14日、月山の南側からペアリフトを利用し山頂を目指しました。前夜は月山志津温泉に宿泊。朝食を済ませて7時にチェックアウト、8時のペアリフトリフト営業開始に合わせて車を走らせました。余談ですが、早朝、宿に隣接する五色沼辺りを散歩していていると、沼の背後の山の中から鳥の声が聞えてきました。「キョロロロロ、キョロロロロ」、アカショウビンです。声が次第に大きくなります。沼を越えてこちら側に来たようです。また移動した、今度は目の前の木の中で啼いています。アカショウビンがそこにいる。一気に気持ちが高まり、目を凝らして探しますがどうしても見つかりません。程なく一羽飛び立ち、沼の上を山の方へと消えていきました。でも見ましたよ、下にふくれた嘴、アカショウビンに間違いありません。一瞬の出来事ですが、会えて良かったです。


ここにも芭蕉の碑がありました
 
朝霧の五色沼
 
木立の中からアカショウビンの声

  

駐車場に車を止め、歩いてペアリフト乗り場へ向かいます。遅れをとってはならぬと必死で歩を進め、7時半ごろに到着。前に並ぶのは10人ぐらい、好位置が確保できました。リフトに乗ると、左手に雪渓が見えてきて、思わずシャッターを切りました。雪渓の上に見えるのが、最初に目指す姥ケ岳(1670m)です。

  

 


8時30分 姥ケ岳登頂

 


中央の谷間の先に湯殿山神社があります

 


花畑、雪渓をこえた先、月山を目指します

 

雪渓を横切る登山道。アイゼンを持たないので慎重に進みます。雪渓を越えて吹き上げて来る風はひんやりとして心地よかったです

 


多くの高山植物と出会えるフラワートレッキングを満喫しました

 

山頂近く、急な斜面が終わり平坦になったところに、芭蕉の句碑が建てられていました。句碑の写真を撮っていると、「これは何の碑なの?」と、おばさまたちから声を掛けられました。「芭蕉の句碑です。芭蕉も月山に登ったんですよ」って答えたのですが、ちょっと偉そうだったかな。ともあれ、登山道は昔から変わらないでしょうから、今私が登ってきた道を芭蕉は下り、更に湯殿へとおりて行ったのかと思うと感慨ひとしおです。今と昔ではいろいろ異なり、何がどうと比べることはできませんが、芭蕉翁このとき46歳。今の私より一回り若いのです。


「雲の峰幾つ崩て月の山」

 
 


湯殿へと下る道

 

山頂には月山神社本宮が設けられています。参拝を済ませ、登拝認定証をいただきました。

 

 

3.湯殿

羽黒山を下山したあと、車でぐるりと回り湯殿山へ。羽黒山からの縦走でなく、月山より先に湯殿山に来るのはいかがなものかと思いながらも、考え抜いた挙句のルートです。邪念を拝してしっかりとお詣りしましょう。

青空に大鳥居が映え、身が引き締まる思いで鳥居をくぐります。湯殿山神社本宮の入口までは参拝バスで行くこともできますが、私は徒歩で、日差しが真上から差し込む坂道を進みました。参拝バス終点から先は本当の聖域となり撮影禁止です。芭蕉は奥の細道で、「此の山中の微細、行者の法式として他言する事を禁ず」ため「語られぬ湯殿にぬらす袂かな」と詠んでますが、その時からのしきたりが今も貫かれています。

 


湯殿山神社本宮までの坂道、お地蔵様を拝みながら進みました

 


この先は撮影禁止です



 

裸足になりお祓いを受け本宮でのお参りを進めていくと、心が研ぎ澄まされてきます。ご先祖に会えるというお社をお詣りしていると、もう会えないひとが傍で寄り添ってくれているような気がしてきて、思わず涙してしまいました。強い信仰心を持つでもなく、ただ芭蕉の影を追い、奥の細道を辿って来ましたが、様々な要因で計画を何度も練り直した結果、期せずして還暦を迎える年に湯殿をお詣りできたことに、心から感謝しました。ここで生まれかわったのだから、もういっちょ頑張ろう!

 

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