時空のクロス・ロード〜ピクニックは終末に〜:鷹見一幸:角川書店(電撃文庫) 


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お名前: ひこ    URL
著者:鷹見一幸
イラスト:あんみつ草
発行:2000年9月25日
発行所:メディアワークス
発売元:角川書店
定価:本体570円
ISBN4-8402-1610-X

 この本、実は出版後間もない頃に書店で手に取ったのですが「何か違う」と思って購入を見
送った経緯があります。それがなぜ購入することにしたかと言うと、続刊である「サマーキャン
プは突然に」が面白そうだったからです。結果としてこの本も読んで良かったと思えました。

 ある時ふとしたことから時空移転装置なるものを手に入れた主人公、木梨幸水。彼がたどり着
いたのは、疫病を発端に崩壊した自分の町だった。そこには自分の幼なじみや友人もいたが、明
日が来ることすらおぼつかないことに主人公は不安を感じる。

 良くある空間転移ものですが、帰りたいときに帰ってこられるあたりがやや一線を画していま
す。ただドラえもんの秘密道具と同じで、ちょっと考えればもっと便利な使い方があるだろうに
と思う部分も多々あります。そこをご愛敬と思うことが出来るならば最後まで一気に読み通すこ
とが出来るでしょう。
 ただ、明日を迎えることが出来るかどうかすら分からない世界であるはずなのに、のんびりし
た主人公(という設定はともかく)にほとんど生命の危機がないのはいただけません。もう少し
緊迫した展開であるべきではなかったかと個人的には感じました。

 最も心に残ったシーンは、主人公の別世界の幼なじみの少女香織が自分の目の前から走り去る
場面です。
 この時主人公は幼なじみの少女を追いかけませんでした。それを目撃した別世界の友人と以下
のような会話が交わされます。

「やっぱりお前の言っていたことは本当なんだな。あっちの世界ってのは、あるんだな。こっち
の木梨だったら、香織を放って置かないだろう、明日…死ぬかもしれないんだ」
「そんな…刹那的なこと…」
「それは、明日が今日と同じ日だと信じている人間の言葉だな。明日の途中で明日が終わってし
まうかもしれないことを知っている人間の言葉じゃない」

 ここではたと思いました。自分の行動は、どう考えても明日、明後日、来月、来年があること
を前提にしたものばかりではないだろうか。もっと今日という日を大切にしなくて良いのだろう
か。
 もちろん自分さえ良ければよいという考えで好き勝手行動することとは違います。けれど、も
し明日を迎えられなかったときに少しでも後悔しないために何らかの努力をしているかという
と、はっきり否です。明日はあるけれど、明日のために今日をおろそかにして良いというもので
もないでしょう。

 この本を読むにはやや年を取りすぎた気がしないでもありませんでしたが、それでも読むこと
には意義があると思います。

文章力  :6
ストーリー:7
イラスト :7

 基本的に20歳以下奨励でしょう。それ以上になると共感できない部分が多くなると思います。
 また、「かっこよさ」を求める人は満足できないと思います。
 平凡な中にある非現実を楽しいと思える人にはお勧めです。

 ところで電撃文庫の発売元は、いつの間に主婦の友社から角川書店になったのでしょう。

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