著者:高見広春
発行:1999年4月21日
発行所:太田出版
定価:本体1480円
ISBN4-87233-452-3
友人に誘われて見た映画「バトルロワイアル」 そのあまりと言えばあまりな直写的表現に私
は衝撃を受けました。この映画を見たおかげで、書こうと思っていたコメディタッチの短編が書
けなくなってしまったほどです。もっとも、これは作品の影響と言うより自分の性格に問題があ
りそうですが。
とある全体主義国家では全国の中学3年生を対象に任意の50クラスを選び、“プログラム”と
称する殺人ゲームを行っていた。これは各クラス毎に行われる最後の1人になるまで戦い続ける
ゲームで、最後の1人だけが家に帰れるというものである。
主人公達のクラスはこの“プログラム”に選ばれた。修学旅行の楽しい旅が、一変して殺人
ゲームへ。戸惑うクラスメート達。しかし無常にもゲームは開始される。
積極的に、あるいは消極的に。
ある者はゲームに乗り生き残ろうとする。
ある者は偶然から昨日までの友人を殺してしまう。
ある者は現実に耐えかねて自ら命を絶つ。
人とは追いつめられるとかくも醜くなれるものなのであろうか。何事もなければ誰も、本人す
ら気づかないトラウマが、非日常の中では人を殺す積極的な動機になりうる。大の親友ですら信
じられず、そこにあるのは1クラスの人々がいるにも関わらずただ孤独のみ。
某小説新人賞において最終選考まで残りながら、選考委員全員から拒絶された問題作。けれど
私からすると、映像により暴力的にイメージをたたき込まれる映画よりもよっぽど落ち着いたも
のに思えました。
映画評にも書いたのですが、扱うテーマは悪くないと思います。極限の状態に置かれたときの
人の醜さ。昨日までの親友すら信じられず殺し合う姿には考えさせられるものがあります。
映画版「バトルロワイアル」で、川田章吾という人物が次のような言葉を口にします。
「人を信じるというのは、ほんまに難しい」
今まで信じるとか信じないということは漠然としか考えたことがありませんでしたが、この映
画と小説によって深刻に考えて込んでしまいました。はたして自分には、極限状態に追い込まれ
たときにそれでも信じられる人がいるのであろうかと。
登場人物は人によって登場頻度に大きな差があり、登場頻度が高いほど概して魅力的に感じま
した。例外は小川さくらと山本和彦のカップルでしょうか。登場はわずか7ページ程度ですが、
そこには信じ合う二人の世界が確かに存在していました。そしてその純粋な愛は666ページに及
ぶ作品の中でもひときわ輝いて見えました。
もう一人特別に思えたのは千草貴子です。これは映画の影響が大きいと思うのですが、凛々し
くいきる少女の命の輝きは私にはまぶしかったです。映画での台詞「私の全存在をかけて、あん
たを否定してあげる」にはなぜだか感動しました。
記憶に残ると言えば、灯台に立てこもった6人の少女達のシーンもそうです。絶望的な状況で
も互いに協力していた少女達の心の動き。客観的に見ればシナリオの書き直しを要求したいよう
な場面でありながら、その過程と結果には納得させられました。
世間ではあまり評判の良くないこの小説ですが、問題はテーマや描写ではなくストーリーで
しょう。最後は正直言ってご都合主義と言われても仕方ありません。せっかくよい材料を選んで
良い調理をしたのに、最後の最後で砂糖と塩を間違えたような印象を受けました。
また、42人のクラスメイトを描ききるにはまだページ数が足りなかったように思います。映画
に比べるとはるかに描写されているのですが、それでも不満が残りました。
文章力 :7
ストーリー:6
イラスト :なし(装丁は7点でしょうか)
テーマ :9
映画は15禁で妥当だと思いましたが、この本は中学生にも読んで欲しいと思いました。
きれいなお話が好きな人にはお勧めしません。逆に本格ホラー、あるいはスプラッタをお望
みの方もいまいち好きになれないのではないかという気がします。
人の心に興味のある方、絶望をありのままに受け入れられる方は面白いと感じられるのではな
いでしょうか。