由布院の町の最奥部、金鱗湖の周辺には、由布院を代表する宿である「亀の井別荘」が広がる(上写真は入口)。由布院2日目の宿泊は、ここ「亀の井別荘」なのである。
「亀の井別荘」は、広大な敷地内に10数軒の離れが点在し、それぞれを回廊が結ぶ構造になっている。宿泊部屋以外に、瀟洒な喫茶室、土産物屋、談話室、大風呂などが配置されている。従業員の応対等もさすがに洗練されていて、老舗の貫禄である。

我々の部屋は6番館。料金は一人35,000円である。個室群の最も奥に配置された一室で、まあ、ゆったりするには好都合である。玄関と附室のほか、部屋は和室と洋室が一室ずつ。時期を考えてもかなり寒い陽気だったのだが、和室には炭火鉢が置いてあり、風情たっぷりの雰囲気を醸し出している(左写真)。
洋室はゆったりとしたサイズのベッドが並んだ寝室になっている(右写真)。重厚かつウォーミーな雰囲気であり、まさにリッチな別荘にいる感覚になる。夜中には、椅子でウィスキーグラスを片手にくつろぎ、思わず雰囲気に浸ってしまった。
しかし、恥を忍んで告白すると、別棟スタイルの個室だから当たり前なのだが、寝ているときにどうも戸締まりが気になって、なかなか安眠できなかったのは、貧乏人の悲しさと言わずして何と言おうか。

部屋の風呂も良かったのだが、やはり大浴場に行くのが人情である。内風呂は天井・四囲が全てガラス張りの燦々たる岩風呂であった(左写真)。無色透明の温泉は熱さも十分で、程良い重さもある。
露天風呂は、やや小さめであるが、空間自体は広々としているので、これまた贅沢な気分に浸れる(右写真)。内風呂の建物の上空に由布岳を眺めつつ、縁台でひと息ついてからもう一度お湯に浸かると身も心も安まっていく。
人が聞くと賛否あるだろうが、私は、大勢の他人と同時期に休みをとらざるを得ないサラリーマンとして、混んでいる時期には財布が許す限り高級旅館に泊まることにしている。いずれ幾らかの料金を払って温泉旅館に泊まる以上、若者が大騒ぎする宿に泊まって、芋洗いの風呂に浸かることこそ、まさに無駄だと思うのである。やや背伸びをしつつも、のんびりとリッチな時間を過ごせば、かえってコストパフォーマンスは高いというのが私の持論である。陽の高いうちから、この露天風呂を約30分は独占して、のんびり幸せな時間を堪能した。

くねくねと折り曲がる回廊を歩いて6番館に戻る。なぜか鬼面をかぶった謎の人影が音もなく回廊を徘徊するという、横溝正史風のイメージを想像してしまい、少し背後が気になってしまう。想像力過多である。途中には、煉瓦造りの談話室があり、落ち着いた雰囲気の中でコーヒーを飲むことができる。

美食家が絶賛する「亀の井別荘」の料理は、とても素晴らしかった。なかなか工夫に富んだ料理が適量出てきて、非常に楽しめた。工夫といっても、結構家庭的な真心のこもった料理といった感じで、いわゆる温泉旅館の料理とは一線を画する。もちろん冷めたものを一度に並べるなどということは勿論ない。悪いけれど、昨日の宿とは大違いなのである。
セリを使った和風サラダといったちょっとした一品が、料理に取り組む心の豊かさを感じさせる。こごみの飯蒸しにはカラスミを焙ってすったものをかけるなど、芸も細かい。お造りは別府で陸揚げされた魚が中心ということで、どれも新鮮で美味であった。そして、メインディッシュは、意表をつく豊後牛のタンシチューである。部屋もそうだけれど、和洋の良い所どりのような姿勢は大歓迎である。
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