さくま(赤坂、すっぽん)


さくまの店構え

坂裏の住宅街のただ中に、「さくま」はひっそりと佇んでいる。夜になって暖簾がかかり、看板が点るまで店の存在にも気付かないが、東京を代表するすっぽんの名店である。日本を代表するすっぽんの名店といえば、300年を超える歴史を誇る京都の「大市」。「さくま」は、その息子が昭和年間になって東京に移り住み、始めた店なのだ。
 個室が6室のみの店なのだが、建物の中は意外と広い。和風でありながら、不思議にレトロチックな和洋折衷にも感じられる趣き。上がるとすぐに絨毯敷きの広間があり、奥には洋館のような階段が2階へと続いている。独特の重厚なムードだ。
 我々が通された部屋は、1階の玄関脇にある和室。少し薄暗く、床の間には侘びた掛け軸と花活けがある。電気ストーブが焚かれており、掘り込まれた卓下の足元には電気カーペットが敷いてある。ビール(キリン一番絞りを選択)を飲みながら、ホッと一息。

先付  すっぽん鍋

付は、空豆、筍煮のおかか和え、金柑
 それ自体がどうというものではないが、鍋が出るまで間があるので、酒を飲むならここで多少進めておくのが適当。そこで、追加ビールと熱燗を注文。熱燗は、1合5勺ほどの瓢箪型徳利で出てくる。銘柄は聞かなかったが、すっきり端正な辛口で好ましい。
 さて、いよいよメインの
すっぽん鍋の登場。木枠に載せられた信楽の土鍋で、派手にグツグツと煮えている。外観は「大市」と相似だが、やや大ぶりであろうか。「大市」は2回に分けて鍋を供するが、こちらは1回で完結。そんなところが理由だろう。
 なお、鍋と同時に
活き血が出てくる。私はすっぽん自体の味が好きなので、精力剤やゲテモノ的な取り上げ方が気に入らない。そのため、活き血は飲んでこなかったのだが、今回は少々評価を新たにした。仲居さんが言うには、血は刻一刻と劣化していくので、新鮮な活き血を日本酒少々で割ってすぐに供さなければならないそうな。グッと飲むと、確かに全く癖がなく生臭くもない。なかなか悪くない。
 さて、肝心のすっぽん鍋。どうしても「大市」と比較してしまうのだが、いくつか気づいたことがあった。
 まず、
生姜がかなり強めに効いていること。すっぽんは酒と醤油だけで超高温で炊き、生姜絞り汁を加えて完成する。濃厚かつ精妙な旨味と生姜の組み合わせが、至福の快感を生み出すのだが、いくらなんでも生姜が強過ぎに感じた。相対的に、すっぽんの旨味が弱く、やや生臭みを感じた面がある。
 次に、すっぽんの
切り身が比較的大ぶりであること。これは、1回で完結することと関連するのだろうが、これはむしろ部位の分けが判然とするので良かった。特に、身体の左右一対の部位がはっきりと照合・確認できるので、2人で公平に様々な部位を楽しむには丁度良い。ただ、首肉だけは1つしかないので、早い者勝ちとなる。
 今回は、すっぽんの具合だったのか、私の体調なのか、エンペラが比較的美味しく感じなかった。しかし、肩や股の骨周りの肉が素晴らしく、また肝臓が驚くほど良い具合に炊けており美味だった。
 総じて、「大市」と比較するとやや大味で、味の焦点に力強さが足りない印象。が、それでもすっぽん鍋の良さは十分に味わうことが出来る。東京で食べた店の中ではベスト。新幹線料金を思えば、これは価値のある店といえる。

雑炊  至福のひととき

し鍋汁を残した状態で、土鍋は回収される。そして、しばらくすると再びグツグツと泡をふいて雑炊の登場となる。
 上面を覆った泡が収まるまで2〜3分待つ。すると、濃厚なゼラチンが表面に淀んだ飴色の雑炊が完成する。鍋際ではおこげが出来ている。この雑炊が素晴らしい美味しさであった。鍋の時には気になった生姜の強さも、この時はむしろ良い方に作用したようだ。
 ハフハフと食べ終えて気がつくと、先に追加した熱燗がほとんど残っている。すると、すかさず島らっきょうの小皿とめかぶ山芋の小鉢が出てきた。本当にこの店の接客がきめ細かいことには感心した。
 最後のデザートは。そして、ほうじ茶。本当に満腹になった。
 のんびりと進めて、時間が約1時間30分。コースと単品、ビールと熱燗が2本ずつ、そして席料とサービス料が取られて、お勘定は2人で6万8千円程度(税込)。まあ、妥当なところだろう。

近すっぽんが注目を浴びているそうだが、なかなか気軽に食べられるものではない。そういう意味では、むしろ食べるときには中途半端ではなく、それなりの対価を覚悟しつつも、それに見合う美味を期待したい。そんな食道楽にとって、「さくま」は東京でベストのすっぽん料理店といえる。
 しかし、赤坂という土地柄、平日のみ営業といった点から敷居が高く感じられるかもしれない。確かに、店の雰囲気は「大市」以上に
社用的である。今回の訪問時にも、社用族らしき連中が次々と車を横づけにして、2階へ上がっていった。女将さんが「今年もよろしく」などと挨拶していたから、きっと常連なのだろう。不況だ不況だといいながら、いったいどうなっているのだろうか。当然の顔をして人の金で飲み食いする社用族や政治家といった人種が私は大嫌いなので、そういう点では面白くないこと夥しい
 しかし、高級料理屋も個人客の取込みを図るご時勢、店自体の姿勢は決して悪くはない。というより、先にも書いたとおり、この店のサービスは素晴らしいのだ。電話対応でも、相対接客でもしっかりとしており気持ちが良い。妻が少々寒げにしていたら、膝掛けを持ってきて貸してくれた。
 
美味のすっぽん料理と上質のサービス、その両方を備えてこその名店である。また訪れたい。


「さくま」
東京都港区赤坂4-5-20
03-3584-6891
18:00-20:00(入店)、土日休
店の場所は非常に分かりにくいので、時間には余裕をもっていく必要あり。
最終訪問日 2005/1/17