シェフス(新宿御苑、中華料理)


静かに構えるシェフスの外観

といえば食道楽至福の季節。天高く馬肥ゆる秋の到来である。(馬=私)
 そして、数ある旬の食材の中でも、
食道楽の憧れは上海蟹である。秋の解禁とともにドッと市場に出てくるが、数は限られており値段もとても高い。
 私がはじめて上海蟹を食べたのは、5年ほど前の「福臨門酒家」(銀座、広東料理)でのことであった。小柄な蟹を上手く食べることも出来ず、ただもう面倒くさくて美味どころではなかった。今回は、そんな印象を覆すべく、「CHEF’S」という店に向かった。

前から想像されるとおり、店内はフレンチレストランのような印象。しかし、飾ってあるのは書額であったりする。シンプルだが美しい店内である。
 料理の盛りつけにも、多分に西洋的な美意識が反映されているが、味そのものは切れ味鋭い本格的中華である。
 メニューは、前菜・肉類・野菜・海鮮・スープ・その他に分かれており、さらに「上海蟹スペシャル」なる季節メニューが加えられている。どれも実に美味しそうだ。熟考のうえ注文したのは以下の品々。
○ くらげきゅうり(1500円)
○ 春巻き(2本600円)
○ 生板春雨炒め(2000円)
○ 上海蟹の豆鼓炒め(2000円/100g)、花巻添え
○ 上海蟹姿蒸し(2000円/100g)
○ 海南鶏(2500円)
○ 上海蟹みそチャーハン(5000円)
 飲みものは、生ビール(600円)のあと紹興酒を注文した。量のタイプで、グラス・ポット(2合)・ボトル(4合)の3種、グレードのタイプで、5年もの・10年ものといった種類を揃える。飲んだのは、ポット・10年もの(2500円)だ。


望の料理は1皿ずつ間をおいて出てくる。こういうところは実にうれしい。
 「くらげきゅうり」は極めて上品な1皿。丁寧な仕事が施された細切りのくらげときゅうりには、絶妙な具合の味が付けられている。薄味といっても良いくらいだが、深い味である。ここらは通常の中華料理とは一線を画するところだ。ますます期待は高まる。
 お薦めの自家製「春巻」は、中に丸海老が入っている。皮がパリッサクッと揚がっており、軽やかな口当たりと味が実に見事だ。
 「生板春雨炒め」は、一転してねっとりズッシリとした板状の生春雨を、豚肉と一緒に炒めている。味がまた控えめで絶妙だ。仕上がりも上品で、中華にありがちな粗野な印象がまったくない。そして、いよいよメインの上海蟹の登場である。
 「上海蟹の豆鼓炒め」は、ぶつ切りの上海蟹が一緒に炒めた豆鼓ソースに絡められて、レタスの上にのって出てくる。もう見ただけで涎が垂れてくる。もう、素手でガシガシと食べてしまうことにする。蟹はもちろんだが、豆鼓ソースが凄い。決して重くはなくて、軽やかにキレのある仕上がりだ。香り高くコクのあるソースを、花巻につけて食べると最高である。
 「上海蟹姿蒸し」は、縛った紐を切り、甲羅を剥がしてから味噌を食べる。ねっとりとした食感とコクがあるが、味には全くクセがない。すっきりとした美味である。他の蟹の味噌と比較すると明らかに味の傾向が異なり、それほど下卑た甘みがない。また、甲羅の内側に張りついた軟組織が良い味だ。脚の部分を食べるのは確かに面倒だが、両端をはさみで切って箸を突き通せば、きれいに身が押し出されることが分かった。
 悪戦苦闘、乱れたテープル上を片付けて料理続行。
 「海南鶏」は、ガーリック・レモンをなすり付けた鶏肉を、皮がパリッとするように焼いて、そこに醤油ベースにアニス・コリアンダーといったスパイスを効かせたタレをかける。個人的には、スパイスはもっと控えめでもいいと思ったが、十分に美味しかった。
 「上海蟹みそチャーハン」は、まさに珠玉の1皿。確かに、チャーハンとしてごく普通の量で5000円という値段は破格である。しかし、例の味噌を贅沢に使ったチャーハンは、旨味がたっぷり。でも甘すぎず、全くといっていいほどクドさがない。これはある意味で、不思議な味である。

くして、上海蟹への再挑戦は大成功であった。その真価を知ることができて実にうれしい。
 以上の料理に加えてかなり飲んで、34000円程度。目先が変わった面もあり、同じ金額を使ってフレンチレストランに行くよりも得した気がする。ぜひ再訪して、別の料理の数々を食べてみたい。

(2001/11/10)


年ぶりに再訪問。
 上海蟹の時期だけに、予約をとるのも大変であった。
 食べたものは、やはり前回と大差なくなってしまった。前菜に上海ソーセージ、くらげきゅうり。茄子の甘辛炒め、墨烏賊とちんげんさいの炒め、ラム肉のロースト。そして、上海蟹姿蒸し、蟹味噌チャーハン。酒は、エビスビール5本程度、10年物紹興酒ポット2本。値段は控えなかったが、ほぼ前回と同じ単価で、ただし上海蟹は大ぶりだったので1パイ6500円であった。
 今回のベストは、くらげきゅうり、墨烏賊、そして蟹味噌チャーハン。上海蟹は確かに大ぶりではあったが、味噌が多くなくそれほどの感動はなし。もちろん身も美味しいのだが、元来は庶民の味であって、この値段に相応とはいえないだろう。
 感動ものは、やはり
蟹味噌チャーハンだ。しっかりと炒った卵が細かく混ざっており、蟹味噌とあいまって見事な黄金色を作り上げている。仕上がりはパラリと軽く、チャーハンの真骨頂を体現している。味もコクがあるのにすっきりと軽やか。油を過多に使ったチャーハンが多いなか、ほとんど奇跡といって良い逸品だ。う〜ん、満足。

れにしても、この店は上海蟹で取り上げられることが多いが、それ以外の料理も本当に美味しい。
 しっかりと味付けされているのだが、それが薄からず濃からず、
落ち着いた大人のバランスなのである。上品ではあるが、繊細すぎない。
 かねてより私は、中華料理の最大の欠点は、小人数の客に対する料理のクオリティだと思っている。つまり、中華料理は「卓」料理なのではないか・・・と思うのである。しかし、
この店は「皿」単位で見事に完成された料理を出してくる。といって、ヌーベルシノワという訳でなく、基本的に正調・中華料理である。感嘆に値する。
 この店の唯一の欠点は、メニューがそれほど多彩ではないこと。そういう意味では、次回こそ上海蟹の時期以外に来店して、他のバラエティも味わってみたいところだ。
 今回のお勘定は、酒をたっぷり飲んだこともあり、2人で40000円を少しオーバー。これも欠点のうちに入るかもしれないが、それだけ楽しめたので充分満足である。

(2003/11/29)


度目の訪問で飲み食いしたのは、以下のメニュー。
○ 生ビール×2
○ 紹興酒10年もの(ボトル)5250円
○ 赤ピーマンのマリネ1050円
○ くらげと胡瓜1575円
○ 黄ニラの炒め物2100円
○ ラムの南乳漬けロースト1575円
○ 上海蟹姿蒸し1575円/100g、今回は250g程度の雌×2ハイ
○ 上海蟹味噌チャーハン5250円
○ 黒ごま団子630円×2
 以上で合計37000円ほどのお勘定。

変わらず皿単位で完成された料理は、いずれも美味しかった。
 特に印象に残ったのは、
赤ピーマンのマリネ。軽く焼いて甘みを引き出してからマリネしている。白皿の中央に並べて寝かせて、周囲にバージンオリーブオイルを張った姿が実に美しい。トロリとした食感と深い味わいが素晴らしい。
 定番のくらげ胡瓜は、若干味付けが濃くなった気がする。
 黄ニラの炒め物は、中国豆腐の千切りと炒め合わせている。塩味だがコクのある上湯を含んで、咽喉の震える絶妙の味わいに仕上がっている。
 ラムは、腐乳の味と香りに強くそそられるが、肉が薄くて小さくて物足りない。前回と比べると、痩せた味わいに感じられてしまった。
 蟹姿蒸しは、いつもながら面倒くさい。味噌と内皮の美味しさは特筆すべきだが、身をほじくり出す労力に比べて、得られるものは多くない。とはいえ、苦労して集めた身を生姜酢に浸して食べると、やはり美味しい。
 蟹味噌チャーハンは、値段を聞いて驚く人もいるようだが、それだけの価値はある逸品。それほどベタベタに甘いわけでなく、蟹味噌の風味がたっぷりと効いてはいるが、意外とすっきりとした味わい。また、チャーハンといいながら、それほど油感はない。蟹味噌の深いコクを備えながら、決して重くはなく、軽やかに澄んだ味は奇跡的と言ってもいい。
 そして、今回最後に感動したのは、デザートの黒ごま団子。ミントの効いた温かい汁に、美しい白玉が数個浸かっている。まるで歯に触らない、たおやかに柔らかい白玉を喰い破ると、中から実にきめ細かい黒ごまの餡が出てくる。胡麻ならではのコクと甘みがあるが、それが実に軽やかである。最後に味覚を変えて、ミント湯も相まって口をさっぱりとしてくれる。これは素晴らしいデザートだ。

くて、今回も十分に満足した。マダムは、さすがに齢を重ねたと見受けたが、機知の感じられる接客は相変わらず。テーブルの上がかなり散らかったが、「中華料理はその方が良いんですよ」とさらりとのたまうあたり流石である。

 秋の楽しみ上海蟹。今回も大満足

(2006/11/11)


シェフスの外観

よそ4年ぶりに訪問。時期的に少し遅れた上海蟹にはこだわらず、4人の食事会をセットした。
 土曜日の夜だったが、店内は満席の盛況。幼児を連れた家族客が騒いでおり、往時に比べると随分くだけたムードだった。マダムもぐっと御齢を召しており、年月の経過を感じさせる。フロアには若くて親しみやすいお姉さんが出ていて、これもまた雰囲気を和らげている要因と思える。しかし要所要所では、やはりマダムが出てきて場を仕切っている。さすがだ。
 同席者が少食なので、それぞれ「2人前ぐらい」と注文したが、総体的にも4人で食べやすいように配慮してくれていたようだ。ということで、以下に記す金額はメニュー価格であり、数量は曖昧なので悪しからず。

くらげ胡瓜  赤ピーマンマリネ

 くらげ胡瓜(1500円×2)は、極細に切られたくらげの食感と絶妙の味付が素晴らしい。そこらの凡百のくらげとは素材からして異なる。相変わらずの美味だ。
 
赤ピーマンマリネ(1050円×2)は、バージンオリーブオイルをたっぷり垂らして供される。意外にコシのある食感と、フルーティにすら感じる甘みが白眉である。

天女  春巻

み物は、生ビールを飲んだ後で紹興酒を常温で飲む。一番良い天女の10年貯蔵をボトルで注文して、価格を失念したが5000円少しぐらいだったか。とにかく、上品な甘さがあってくどさが口に残らず美味。昔はろくな紹興酒が出回っていなかったが、近頃は本当に良いものが飲めるようになってありがたい限りだ。
 
春巻(650円×2)は、マダムが常に薦める定番メニュー。中は叩いた海老など豪勢なものだが、それ以上にサクッと軽い皮のつくりと揚げ方が見事。シンプルに見えるが、高い技術に裏打ちされた逸品だ。

上海蟹のトーチ炒め  ラム南乳ソースグリル焼き

 上海蟹にはこだわらないと書いたが、折角なので上海蟹のトーチ炒め(6800円)を注文。コクがあって美味しいのだが、手がソースにまみれてしまうのが難点。いつも面倒になって、殻ごとガリガリと食べてしまう。残ったソースは花巻(180円×4)につけて食べる。
 
ラム南乳ソースグリル焼き(1600円×2)は、紅腐乳に漬けたラム肉を焼いたものだが、柔らかい肉感の残る状態に仕上げられている。少し味が濃くて塩辛いのだが、独特の風味がたまらない。

黄ニラ干糸炒め  上海蟹みそ炒飯

 黄ニラ干糸炒め(2300円×2)は、この店で最も好きなメニューの一つ。干した中国豆腐を戻して極細に切り、黄ニラと一緒に炒めている。味付は塩と胡麻油でごく薄いが、旨味が効いて物足りないことはない。すっきりと端正な味わいは、卓越したセンスを感じさせる。
 とどめはこの店のスペシャリテ、
上海蟹みそ炒飯(5250円)。ふんだんに蟹味噌を使った炒飯は、以前よりも卵を多く使っている印象。以前はしっとりオイリーで蟹味噌のコクが前面に出ていたが、今回は比較的パラリと炒められており、炒飯としては正しいのかもしれないが少々普通になった感もある。

ごま団子

 デザートは、あえて全員同じごま団子(680円)を注文して、集中して食べる。黒胡麻の餡を半透明な白玉状の皮で包み込み、温かいジャスミン湯(塩漬けにしたジャスミンの花と砂糖を湯で溶いている)に浸している。
 実に柔らかくて滑らかな餡と皮の舌触り、香り高いジャスミン湯との組み合わせが素晴らしい。以前、緑色のミント湯に浸したバージョンを食べたこともあり、それもまた絶品だった。今回のジャスミン湯も見事としか言いようがない。

局、飲み食いとも少なめだったので、4人で38000円弱のお勘定で済んだ。満足感は十分で、かなりリーズナブルと言える。
 マダムも健在だったし、
素晴らしい料理を満喫できた食事会だった。期待を外さない名店だ。


「CHEF’S」(シェフス)
東京都新宿区新宿1-24-1
03-3352-9350
11:30-14:00,18:00-22:00、日祝休
場所は非常に分かりにくい。本当に分かりにくい。店の電話番号を控えて行くことを忘れずに。
最終訪問日 2010/12/11