ぼたん(神田、とりすき)


田須田町に明治30年代から暖簾を掲げる老舗である。
 雰囲気たっぷりの店に上がると、中座敷に通され、敷居で区切った一角を割り当てられる。メニューは全く出てくる気配もない。それもそのはず、
とりすき一筋なのだから無理もない。というわけで、「鍋ですか?」というおばちゃんの問いに黙って頷いてしまった。
 こういうところが、ある意味で老舗の無愛想さで、どうにもこうにも困ったものである。後で知ったのだが、鍋を頼んだ場合に限るのだが、焼き鳥などの単品料理があったのである。総じて、老舗だからといっておばちゃんの態度に怖じ気づいたりせず、何かと色々聞いてしまえばよかったのだ。見栄は美味の妨げなり、である。

見ただけで美味しそうな素材  専用の鉄鍋を炭火で炊く

たんのとりすきの材料は、ひなどり(左)とつくね(右) の2種類。ひなどりはそのまま煮て食べて、成鳥はつくね状にして煮るのである。具は葱・焼豆腐・しらたき。タレも元ダレと割り下があり、客が自分で調節して食べる。私はもともと卵を付けて食べるすき焼きは好きでないのだが、それでも思わず食べたくなる見事な卵が出てくる。
 しばらくすると、炭火を仕込みに来る。
見事な備長炭で、あらかじめ火鉢で火を加えられている。卓の木枠がよく燃え出さないものだと感心する。見るからに、幾星霜の年期が染み込んだ代物である。専用の南部鉄鍋も実に合理的・合目的に出来ているのがわかる。
 グツグツと煮えていく鍋。まずはひなどりから煮るのが定石である。実に柔らかくてかつ旨味がある。甘いタレと卵を付けてしまうのは惜しいくらいである。後から思えば、やはり焼き鳥なり他の方法でも食べてみたかった!と心から思う。つくねはタレ全体に影響を及ぼしながら煮えていく。それ自体はもとより、タレを吸い込んだ豆腐としらたきがまた美味しい。
 1鍋1人前なので、2人前頼んだ場合は、この流れ(ひなどりとつくねのセット)が2回繰り返される。最後に残った汁を御飯にかけて食べるのがまた最高だ。

直いって、庶民の口も奢ってきた現代においては、「とりすき」が極めつきの美味・・・とは思わない。また、「とりすき」が鶏を食べる最も優れた食べ方だとも思わない。しかし、ときに懐かしく、無性に食べたくなる味わいである。これぞ伝統の味といったところか。


「ぼたん」
東京都千代田区神田須田町1-15
03-3251-0577
11:30-21:00、日祝休

焼鳥などの単品は鍋を注文した場合のみ注文可
最終訪問日 1999/5/15