Last Update 01-06-07
オタクの会話(食うか、食われるか編)
またまたのオタクネタです。先輩と後輩の間で繰り広げられるオタク談義。短い中にも人間の優しさと感情がぶつかりあう心温まるトークをお楽しみ下さい。
ある日、会社の先輩、後輩の仲であるOとTの二人が、偶然街で出会いました。
OとTは、周りが認める(ここが一番重要です。たとえ自分たちが否定していても。)オタク仲間です。
そして、次のような会話を交わしました。
O:「ATRAC3、MP3よりも音イイっすよ。」
T:「アトラック3? だめだめ、あんなの。しょせんMDLPだろ。」
O:「...。」
この勝負、Tの勝ち!
オタクの世界は怖いですね。この短い会話の中で、勝負が決まってしまうのですから。
しかし、どこがどうやって先輩Tが勝ったのか、という事に対しては、少々解説が必要かもしれません。
「ATRAC3」というのは、音楽の圧縮プロトコルです。ここでも充分オタクですね。
ここで、先輩Tが、
「ATRACって、なんだ?」
って聞いたら、Tの負けです。理由は、「ATRAC」を知らなかったからです。
また、序数の3(スリー)の意味もつかめずに
「ATRAC3って、何?」
と聞いたとしたら、それは即死亡!KO負けを意味します。
この場合は、ATRACを共通の話題として共有出来たので、ドローとなりました。
しかし、勝ち負けがつかなかったこの会話の中でも、オタクの二人は、強烈なつばぜり合いを演じていたのです。
実は、後輩Oは「ATRAC」を「エートラック」と発音していたのです。
「アトラック」、とわざと違う発音で切り返した先輩Tは、ここでカケに出ているんですね。実は、彼は「ATRAC」の本当の読み方が「エートラック」なのか、「アトラック」なのか知らないんです。
ここで、後輩Oが「正しい発音はエートラックですよ」と言ったら、そこでTのKO負けです。そう、それが、たとえウソだったとしても..。
しかし、二人とも正しい読み方を知らなかった場合、後輩Oを、「俺の読み方は違っていたのか」という不安に陥れることにより、大きなダメージを与える事が出来ます。
(この会話の中では、ですよ。正式な読み方は、ど・ち・ら?<田中真紀子風に>)
Tにとって幸いなことに、後輩は読み方を知らなかった。
そして、
「しょせんMDLPだろ」
のひとことで一気にカタがつきました。
後輩Oは、ATRAC3がMDLPの圧縮プロトコルとして採用されている事を知らなかったのです。
オタクの会話における勝敗の判定基準は、1.モノシリ(知識)、2.カタリ、3.ヒロガリ、4.ハッタリです。順位が上がるほどダメージが大きいです。
仮に、お互いの知識量が同等だったとすると、次なる判定基準は「どれだけその話題でカタれるか」、であり、「どれだけその話題から派生した話題を提供できるか」、となります。ここまで来ると戦いはかなりハイレベルな物になって来ます。そして、この中には、「どれだけ相手を自分の得意な話題に引き込めるか」というのも含まれます。この応酬はまさに相撲で言うところのまわしの取り合いであり、同席した第三者から見ると、そこはまさしくコロシアムであり、見る者を興奮の渦に巻き込まずにはいられません。
そして、どうしても勝負が付かない場合は、最後の手段、「ハッタリ」の出番となり、戦いが終わるのです..。
会話の後、二人の間には、奇妙な連帯感のような物が沸き起こります。それが次のラウンドへの活力となり、いつか再び戦いが始まるのです。
オタクの世界はまことに過酷です。普通の会話にも、これほどまでに攻撃と防御を繰り返しているとは..。