Last Updated 2012-06-24 |
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「向日葵」
久しぶりの更新です。書きかけでほったらかしになっていた物を蔵出しします。
少しメロウな感じの短編です。
2月に、飼っていたハムスターが死んだ。
小動物だが、これが結構こたえた。
なぜなら、このハムスターは俺が買って来たからだ。
ペットショップを通りかかった時、売れ残り(つまり処分が近い)の箱に入っていた。
ずっと、こっちを見ていた。俺はこういうのに弱い。
その時は後ろ髪を引かれるように帰って来たのだが、翌週行ってみると、やっぱりこっちを見ていた。
やっぱ買うよな。ていうか、買いに行ったのだ、実は。
ハムは人気者だった。
黒い縞模様の普通のハムスターなのだが、とても愛嬌がよく、うちに来たお客さんは必ずハムのケージの前に釘付けになった。
でも、2月のある日、突然に、本当に突然に死んでしまった。
ある日の夜、いつも通りえさをあげようとしたら、餌が全然減っていない。
ハウスの蓋を開けてみたら、動かなくなっていた。
「・・・」
昨日まで、いや昨日の夕方まで元気だったのに。
そういえば、餌をあげるとその音を聞きつけ、すぐハウスから出てくるのに、その日は出て来なかった。
なぜ昨日の夜、ハウスの蓋を開けてあげなかったのだろう。
昨日の夜じゃなくても、朝気付いていれば、と悔やまれた。
それでも掌の上に乗せたら、ほんの少し暖かくなった。
最後の力を振り絞ってお別れを言っているのか、と思ったら、胸が熱くなった。
次の日の夜、体温が完全に失われた事を確認して、家にある一番大きい木の根元に埋めた。
子供が聞く。「なんて言っているかな。」
「『受験頑張ってね』と言っている。」
家族で泣いた。
夜、回し車の音がしない家はとても静かだった。
ペットロスを乗り越え、子供は無事第一志望校に合格した。
もっとも、ペットロスになったのは俺の方だったのかもしれないが。。
そして6月になった。
妻が聞く。「木の根元にひまわりが咲いているけど、いつ蒔いたの?」
「ひまわりの種を蒔いたのは先週だよ、咲くわけがないよ。」
半信半疑で庭に行ってみる。確かに咲いている、でも、何故?
しばらく考えた。なんとなく場所に縁があるような気がした。
「!」
この場所は、確かハムを埋めた場所。
埋める時、最後の餌を食べていなかったので、一緒に埋めてあげた。
その餌の中にあったひまわりの種が、発芽したのだ。
もう一度ひまわりの所に行ってみる。根元を見れば、3本のひまわりがほぼ一点から、窮屈そうに、しかしまっすぐに茎を伸ばしている。
ひまわりの花は、こっちを見ていた。あの日と同じだ。
「帰って来たんだね、おかえり。。」
家族で朝ごはんを食べながら、窓の外を見る。そこには、朝日をあびて太陽を見上げる向日葵の花があった。