Last Update 99-05-25

HONDA S2000について語ろう

久しぶりに、「ベストカー」を買いました。出張帰りの電車の中で読む為に買ったのですが、HONDA S2000の特集をやっていました。
アルテッツァに続くHeiny-Meeder's クルマ特集 第二弾、スタートです
今回は文体を変えてみました。


このところ、車趣味から少し離れている間に、HONDAからS2000が発売された。自動車雑誌でも大々的に特集しているが、そのスペック及び雑誌の取り上げ方に対し、少々異議を唱えたいと思う。

FRは最良のレイアウトではない
自動車に限らず、「まず出る物はほめる」というのは広告収入に頼るマスメディアの性質上やむを得ない所であるが、S2000の報道で一番引っかかるのが「ホンダ久々のFR」という部分である。
ややもすると、「FRこそ最良のレイアウト」という取り上げ方をされているが、FRは最上のレイアウトではもちろんない。「走る、曲がる、止まる」という車の本質的な動きに対して最良のレイアウトは、もちろんMRである。
MRのメリットはよく挙げられる「重量配分の適正化」「Z軸方向のヨー慣性モーメント低減」であるが、これはエンジンをフロントアクスルの後ろに置く、いわゆる「フロント・ミッドシップ」でも実現可能である。FRに対するMRのアドバンテージは「重量の低減」である。FRの持つエンジンと駆動部を結ぶ長いドライブシャフトは、FRがどんなに逆立ちしたってかなわない物理的なデメリットである。

・オープンであることとスポーツは無縁だ
これも、雑誌ではベタ褒めに近い。曰く「ボディ剛性はクローズドボディ並」という所である。最近は解析技術の進化により、オープンでもかなりボディ剛性を上げられるのは耳学問として多くの人がご存じだろう。しかし、どうやっても、
「じゃあ、その技術をクローズドボディに使ったらもっと剛性を上げられるのね」
という呪縛からは逃れられない。あるいは、同じボディ剛性ならもっと軽量化出来るという考え方だ。

以上より、S2000についてはFR、オープンボディと言うことで、私を含むほんの一握りの人間に対してはアピールする所が少ない。また、1,240kgは重い。構造が全てではないとわかってはいるが、「この構造をしてスポーツカーとは何を笑止な」、と言った所である。

しかし、自動車会社も企業という観点から見ると、この選択は決して間違ってはいない。ミッドシップ、2シーター、クローズボディというのは、あまりにも市場が狭いのである。
最近の自動車販売台数を見てみると、スープラ 137台、フェアレディZ 90台、MR2 144台と、惨憺たる状況である。これらは、モデル末期という事を差し引いてもスポーツカーの市場というのはまことに狭い事が判るだろう。
スポーツカーが「それ単体では売れない」以上、何か付加価値を付ける必要がある。それが、「オープン化」だ。単体で見ると、「スポーツ」も「オープン」も市場規模としてはどちらも取るに足らない物であるが、「実用性がない」という所では共通している。ゆえに、自動車メーカーは「スポーツ」+「オープン」=「販売台数2倍」を目論んでいるわけだ。
国際的に見ても、スポーツカーはみんなオープンになっている。BMW Z3、MB CLなど、また、トヨタも次期MR2はオープンにするという。

もう一つ違った見方をすれば、「部品の共通化」である。現在のところ、HONDAにFRはないが、S2000のコンポーネンツを使って、レジェンド、インスパイア等がFRで登場する可能性は充分にある。つまり、S2000はHONDA FRの習作と言った位置付けである。

また、ポルシェ911のように、RRという物理学の法則からはとんでもなく外れた構造を持つ車がタイヤ等の周辺技術の進化にも助けられ、「ピュア・スポーツ」として長らく君臨した事からも判る通り、基本構造が物理学の法則を外れていたとしても仕上げ次第でどうにでもなるという所もある。言い換えれば、ミッドシップ、クローズボディという構造は市場においては単なる記号性以上の意味を持たないとも言える。

以上より、S2000については、「現代のニーズにマッチしたスポーティーカー」と言えるだろう。メ−カーの観点から見ればFR、オープンについても理解すべき所はある。しかし、マイナーチェンジ後のRX-7が異様とも言えるほど売れている事*1、ホンダというメーカーが、
「F1のシャーシも作れるんだろ!50周年記念なんだろ!NSXのリヤオーバーハングの反省*2があるんだろ!」
という事を考えると、どうしても納得がいかないのである。

 


補足

このアーティクルは、「ベストカー」を資料にして書いていたが、確認の為、HONDAのページを見て驚いた。
「ミッドシップ車に匹敵するレベルにまでヨー慣性モーメントを小さくしています。」
「クローズドボディ車に匹敵するボディ剛性を確保しました。」

だそうだ。当のHONDAも、そんなこと充分承知なんだね。

*1 RX-7についてはあえて本文中には書かなかった。
 3月度の登録台数が2727台と異様に高い数値が出ているが、これは 280psエンジン、ビルシュタインダンパー搭載車の設定等のマイナーチェンジが行われた為の新車効果と見る事が出来る。
このRX-7、国産車の中で唯一と言って良い程の「思想優先」の車である。
くどいようだが、そう言った「記号性」や「開発者の考え方」で車を買う人は確実に存在する。だからこそ、S2000はマーケットに迎合せず、「ミッドシップ クローズドボディ」で出してほしかった(値段が倍になるかもしれないけど..)。

*2 NSXの写真を横から見ると、リヤのオーバーハングが妙に長い事が判る。これは、「ゴルフバッグが2個積める
」トランクの為であり、この部分は一部で議論を呼んだ。こういった「見切りの悪さ」は、S2000がNSXから受け継いだ最大のネガティブポイントであろう。

 

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