ファゴットを始めて何年か経ち、多少腕が上がって来た時にやりたい曲がありました。それはモーツァルトの協奏曲と協奏交響曲、それにウェーバーのアンダンテとハンガリアンロンドそして協奏曲です。これは多分誰でもそうではないでしょうか。その頃はファゴットのレコードも少なかったのですが、ポール・オンニュがバソンで吹いたウエーバーとモーツァルトの協奏曲それに協奏交響曲を聴き、その後東響時代の岡崎さんがウエーバーを吹かれた生演奏聴き触発され、何時かやってみたいと切実に思いました。
何とかプロの世界に入って、結構忙しくしていた頃に森川室内楽としてソロの演奏活動を始めました。そうこうしている裡に協奏曲をやるなら元気な今が良いと思ったのが、1988年です。正確には思ったのが1987年で実現が翌年なのですけれど。実現するにしてもお金も掛かるので、纏めてやる事にしました。ハンガリアンロンドは87年にピアノ伴奏でやっているので、残りの3曲をやろうと決めました。吹き振りと言うのは無理なので、菅原先生に指揮をお願いしました。伴奏はN響団友オーケストラ、会場はルーテル市ヶ谷センターのチャペルです。
オーケストラとの練習は前日だけの3時間くらいです。この時はウエーバーには、手に入れたばかりのPickertを使おうと思い、愛用のHeckelと2台持って行きました。それと言うのもHeckelのテナー記号3間のbが高くなってしまい、これを修正するとaが低くなって上手く吹けない状態になっていたのです。そこで機能性の良いPickertを持って行った訳です。しかし、練習ではそれを使いましたが本番はHeckelにしました。機能性はともかく音色や音楽性は慣れた楽器が良いと感じたからです。しかし音程を修正しようとしてモーツァルトで失敗してしまいましたが(笑)
後に杉本(暁史氏・元ウルム歌劇場首席)さんから直し方を教わったのですが、時既に遅しでした。
師匠に指揮して頂くのは嬉しい反面、少々 面倒でもあります(笑) 協奏曲と言うのはソリストが主役であり、指揮者はサポートに徹するのが役割です。しかし、指揮者が師匠だと額面通りには行きません。大変申し訳ない言い方ですが、菅原先生の棒は名人上手とは言えません。しかも、どう考えてもオーケストラに向かって振っているお積りだとは思いますが、実際にはファゴットに向かって振っておられます。力関係を考えれば仕方ないとも思えますが、これには困りました。私はフレーズの終わりを長く吹きたいと思っても、棒が先に行くので合わせるしか無いのです。演奏に余裕を持たせてもらえない訳ですから、結構辛いものがありました。協奏曲の場合は舞台に出て来る時に通常はソリストだけがお辞儀をし、指揮者は添え物の様に指揮台に登ります。しかし、この演奏会では二人揃ってお辞儀をしているので、その関係がお分かりになれると思います。私は特に不満に思いはしませんでしたが、後で面白いと思ったものです。
ウエーバーの2楽章は特に合わせるのが難しいものです。中間部のホルン2本との絡みはホルンにファゴットの音が良く聞こえません。ここは棒だけが頼りです。私はオペラのモノローグの様に吹きたかったのですが、上手く行きませんでした。時間も無いので、本番では兎に角棒に合わせる事にしました。
YouTubeに載せた動画でもソリストが棒を注視している事が見て取れると思います。この経験もあって、私は棒を振る時に自分を出すだけでなく、演奏する人が納得出来て楽しく音を出せる様に務めます。閑話休題、そもそもどんなテンポ(限度はありますが)でも合わせる技量が無ければ、プロとしては失格でもあります。最後まで付いて行き、何とか音楽にした訳ですから、実に良い経験だったと思うのです。尤もその後何度か協奏曲をしましたが、ファゴットを知らない指揮者よりは勿論菅原先生の方が良かった事を記して置きます。
今回はウエーバーだけですが、その裡にモーツァルトの演奏もアップロードしようと考えています。