Bell Bassoonを吹いてみた
Bellというファゴットを知ったのは2003年の事だった。ネットサーフィンをしていて、見付けた。そのHPから写真をダウンロードしてあった。色々と楽器を買うのが好きな友人にこの楽器の事を知っているかどうか訊いたメールも残っていた。
当時でもヘッケル並みの値段だったが、カナダドルかUSドルで注文が出来た。その友人は経済力があるので、買うかも知れないなあと思ったのだが、買わなかった。 楽器はとにかく吹いてみない事には判断が出来ないので当然だけれど。誰か持っている人はいないか色々な人に訊いたが、残念ながら果たせなかった。 今年になって日本ダブルリード(JDR)がこれを入れるという。長年の好奇心と期待がようやく果たせる事になった。
JDRに早速吹きに出かけた。二種類あって、それはヤマハと同じく、太管と細管があった。とはいえ内径に変わりは無く、管壁が厚いかどうかだけだという。細管を選択し吹いてみた。実に良い。BrilliantでGentleというのが、率直な感想だ。
キーの動きは実にスムーズで、確実に動く。低音域の操作性の良さは有難い。ヤマハの411の様に最低音のBは途中で連結してある。これはベルジョイントが長いコンパクトタイプだからだ。411はコンパクトタイプではないが、板バネを使わないので90度ずれているが、この楽器では通常の位置にある。BとHの動きに差異が出ない様に実に上手く設計してあると思う。ただ、そのためそれを操作するキーは少し短く、high-dの辺りまでの長さだ。これは慣れれば問題は無いし、cのフリックキーを操作する時にBキーを触る恐れは無くなるかも知れない。他のキーのストロークも小さくて操作しやすい。新品の楽器なのに、音に斑が無いのは素敵だ。
聞けば、太管は新しいヘッケルを、細管は昔のヘッケルを想定して作っているという。なるほど細管を吹いた時に、自分が吹いていたヘッケルに似ていると感じた訳だ。太管の方が強い音が期待出来るが、私の好みでは細管が良い。若い頃は太くて大きい音の出る楽器が好みだった事もあるけれど。全体の仕上がりも実に緻密で美しく、特にU字管はブロックの金属を削り出して作るなど、相当な職人魂が感じられる。
この時Bellを10年以上吹いているリヨンオペラのコロンボさんと会えたので、色々話した。細管のモデルは引退したフィラデルフィアのガーフィールドさんの楽器を手本にしたらしい。前にガーフィールド氏と会う機会があり、その折に愛器は4000番台の楽器をニューヨークフィルにいたコーエンさんから譲り受けたといっていた。その楽器を吹いてみた訳では無いが、細管の吹奏感は納得だ。コロンボさんに私のヘッケルの製造番号を訊かれたので、答えると私の感想を分かってくれた様だ。私のは10000番台だったけれど。
因みにヤマハが手本にした楽器は、三田平八郎先生がN響時代に使われた楽器らしい。先生の言によれば、戦争で職人が死んでしまった時代の楽器だったので酷かったとか。N響の楽器だったけれど、何とかしようと意地を張って吹かれたそうで、退団する時に「自分以外に、もうこの楽器を吹ける人はいないから、ヤマハに研究材料としてやるのが良い。」と話し実際そうなった、と仰っていた。ヤマハはそれ以外の楽器もモデルにしたかも知れないが、それは知らない。
さて話を戻そう。この楽器の値段だが500万円弱らしい。今のヘッケルが700万以上で、10年待ちだという事を考えれば、Bellは良い買い物だと言える。まあ安くはないですがね(笑)
ワルターなどもそうだけれど、Bellは親子で家内工業的に作っているため、年に10数本しか出来ないそうだ。余りにヘッケルが高いので、この先Bellに人気が出た場合、これも10年待ちになる可能性もない訳ではなかろう。
私は流石にもう新しい楽器は要らないが、お金に余裕がある人には躊躇無く勧められる楽器だ。