4月6日(水曜日)

ハイデルベルク観光とオペレッタ

 今日はハイデルベルクを観る。ハウプトシュトラーセを抜け、登山電車(Bergbahn)の駅へ。以前に2回泊まったホテル・アム・コルンマルクト(Kornmarktは穀物市場の意)の前にある。駅舎に近付くと、けたたましい中国人団体の声がする。これと一緒になるのは叶わんなあ、と思いつつも窓口へ。券売機が使えなくなっているのが不審だった。けたたましい団体のガイド(これも声がでかい)がドイツ語で遣り取りしていた。昨日インフォマチオンでベルクバーンは城までは行くと聞いていたが、聞き違いだったようで全線運行中止だった。バスは動いていると言われたが Nein Danke!だ。諦めて坂を登る。きついが結構楽しい。若い頃はこれが当たり前で、5回くらい登った。同じ坂でもネッカーを挟んだ向い側、哲人たちの道にある蛇の道(schlangen weg)は、一度で懲りた。高さも長さが違うもの。まあ10分か15分ほど掛かったかと思うが無事到着。

 5EUR支払い場内に入る。最初来た時はお城での演奏会だったので、入場料は取られなかった。この料金も大分高くなったが、その代わり薬事博物館と大きい樽(Glosses Fass)が無料で見られるようになった。樽を見ながらコーヒーを一杯。昨日食べ過ぎたが、ここでようやく食欲が出てきた。その後、薬事博物館(Apothekenmuseum)をじっくりとみた。2度目だが、中々面白い。健康保険制度が欧州でも逸早く取り入れられた国なので、薬局が多いのだと展示物と説明書きで分かる。

 さて街に戻るのだが、来た道は急で降りる方が大変だし、他も見た方が面白いのでバスの道のほうから降りる。城の庭はドイツ人の子供の団体がいてうるさかった。時折「ニイハオ」という声がする。最近は中国人が多いので、お愛想のつもりで言うのだろう。こういう時は「俺は日本人だ!(Ich bin Japaner)」と言うに限る。女の子だったがしょげていた。強く言い過ぎたかと反省。

 道の途中のベンチで腰を下ろすと、二匹のペキニーズを連れた小母さんが来た。「きれいな犬ですね」と言うと喜んでいた。家にも猫がいるが、ペットを褒められて自分が褒められるより嬉しいのは何処の国でも同じだ。その近くに子供のためのアスレチックがあり、滑り台があって道をショートカットできるので、角山さんと降りてみた。フットサル、卓球などの遊具があったが、14歳までと書いてあったのでそそくさとネッカーの方に降りた。

 久し振りに街外れの凱旋門を観に行く。小なりとは言え、綺麗な門だ。しばらく眺めていると時分になったので、昼飯を食べるのに店を探すが、どうもピンと来ない。お気に入りのイタリアンレストランDa Marioまで行こうかと思ったが、古い橋(Alt Bruecke/Karl Theodol Bruecke 角山さんと写っている動物の像は猫にしか見えないが、猿だそうだ)を観ていない。ビスマルクプラッツまで戻って食事してからでは遅くなり過ぎだろうと諦め、聖霊教会(Heiliggeist Kirche)近くのイタリア料理屋へ。Villa Lounge Heidelbergと言う店だが、Hard Rock Cafeなど8店舗ほどある系列店の一つらしい。

 私はトマトソースのシンプルなナポリ風(ナポリタンは日本にしかないとよくいわれるが、ドイツにはあるのだ)、角山さんは鮭のフェットチーネを食べる。味は悪くないが、明らかに茹で過ぎ。Da Marioに行けなかったのが残念だ。その後古い橋を渡ると中ほどでチェンバロンの演奏を始めた男がいる。現物は初めて見るので、面白かった。少し投げ銭をした。の反対側の岸辺を歩いてを眺めたりして、新市街(Neu Heim)に入り更に散策。すると安売りのストアがあったので、立ち寄る。所謂ボックスショップだが、冷蔵や冷凍品も置いてある。1,5Lのボックスワインが2EURもしなかったので購入。それ以外にマスタード(Senf)レンズ豆なども。また新しい橋(Neue Bruecke)近くの本屋でイギリス製だがMp3のCDがあり、10時間分も入って4,99EURだったので、グレンミラーとピアソラを衝動買い。その後一旦ホテルに帰り、ひと休みして角山さんのお土産のチョコレートを見に行った。

 ビスマルクプラッツのデパート、カウフホフ(Kauf Hof)の食品売場に入るといつもそうだが興奮した。日本にないものが多いからだ。カゴに香辛料やらドイツパン、楽しい会の女性メンバーのお土産にイースターのうさぎチョコも。レジに行き日本式にカゴごとベルトに乗せると、お姉ちゃんが「ナントカカントカaus」と宣っていたが聞き取れない。その裡笑い出して、物をカゴから出し始めた。そうだった!さっきはカゴを使わなかったが、ドイツではベルトの上に自分で載せるのだった。前の店ではかごを使わず手に持っていたので、問題なかったのだが。要するにカゴから出せと言っていたのだ。つい日本にいる時と同じにしてしまう。

 しまった、と思っていると、何を思ったかお姉ちゃんの一人が手伝って、というより詰めてくれた。所謂レジ袋も自分で取るのだが、「袋(Etui) もそれじゃ小さい」などと、言いつつやってくれた。珍しい事もあったものだ。ドイツ人はまずそんな親切はしない。詰めながら「Schweineて分かるの?」などと訊かれる。もちろん豚肉だと分かっているさ。日本人は読めるけど、聞き取りは出来ない事があるなどとは思わないらしい。確かに文盲の方が多い訳だからね。まあこんな時は敢えて抵抗はしない。分からないふりしていた方が良い事もあるし、実際分からない事の方が多いし。まあ気のいい姉ちゃんたちだった。見た所トルコ人だったが、ドイツ人から差別されて来た歴史があるので親切だったのかも知れない。30年前パリに行った時、アフリカからの移民は親切だったし、それに彼らのフランス人への反感も感じた事を思い出した。「GSG-9」というドイツ連邦警察特殊部隊のドラマがある。そのストーリーにはこうした移民問題が常に付き纏っていた。ヨーロッパは難しい。一筋縄ではいかない。

 話を戻そう。角山さんは目的のチョコが見当たらないので、ハウプトシュトラーセの方かも知れないとそっちのカウフホフ (この町には二つある) へ。そこでも、しかし見つからない。長谷川まゆみさんと17時30分に待ち合わせして、ワイングラスを買うのに付き合ってもらうという事なのでその時にしましょう、とホテルへ。実は小腹が空いていたので、さっき小さいバゲットと牛乳1Lを買った。0.7EURと0.69EURだ。日本円で合わせて180円くらいだろう。食べると美味い。角山さんにも食してもらった。こんな簡単なものが美味いのは、やっぱりドイツが酪農国であるからだろう。

 しばらくして時間になったので、長谷川まゆみさんと3人で出かける。ワイングラスはドイツ式の高坏で、シンプルなものではあるが5客で14EUR足らずだ。安い!長谷川さんにパッキングの交渉をしてもらい、無事購入。角山さんの近所のお土産にするチョコ(学生のキス Studentenkuss)も見つかった。

Opernzelt

 この後はオッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄(地獄のオルフェ)」を観に行く。テアターは大改装というより立て直しで工事中。見に行っても囲いで何も見えない。現在は、かつて消防署のあったビル内部にテント(Opernzelt)を張って活動中だ。シュトラーセンバーン(Schturassenbahn)の22系統で、5分くらいの所だ。少し早めに出たつもりだったが、30分も前に着いてしまった。それにしても暑い。みんな空調の無い狭いホワイエにいられないので、外で時間を潰している。実は横にラウンジがあって、そこで30分前から演目に付いての解説がされていた。しかし、行ってはみたがドイツ語なので理解するのはまあ無理だしもっと暑い。しょう事なく熊の様にうろうろ。そろそろ時間だ。

 開演の15分前に客入れが始まる。入ると舞台の上では、終幕の有名なフレンチカンカンの所が演じられている。あれと思ったが、まさか練習の訳は無いので、もちろん演出なのだろうと思った。テレビのドラマで回想のシークエンスとして事前に戻るものがある。果たして客が入り終わると、袖にいた派手な恰好の女が演出家宜しく口を出してくる。これが狂言回しになるのだろう。そしてオペレッタは始まった。このオペレッタの序曲は有名だが、オッフェンバック自身が作ってはいない。Karl Binderという人が後年にメロディーを作品から集めて作ったものだ。したがって演奏される事はむしろ少ない(そうだ)。などと言っているが、実のところ私も見るのは初めてだ。

 オペラはドイツ語の上演だが、舞台の上部にドイツ語の字幕(余り見易くは無い)が出る。日本語でも同様だが、歌になるとドイツ人でも聞き取り難いのだ。しかし私のダメなドイツ語でも、字があると多少は分かる。そして舞台はまさにテレビ的な演出で進行して行く。幕間も幕切れではなく、2幕の3場の前に入った。休憩中に上を見ると文字通りラバー製と思われるテントが張ってある。存外響きは悪くない。ホワイエは暑いので、外で過ごす。ビールでも飲めばいいのだが、今日は食べ過ぎて未だ食欲が湧かない。

 後半に入ると色々な仕掛けが分かって来て面白くなる。神々が怠惰なのはバッカスの酒を飲み過ぎていたからだ。原曲には無い狂言回しの女も快調だ。歌手はどれも悪くない。オケの出来もいいが、演出が良しにつけ悪しきにつけ際立った感じがする。例えば、エウリディーチェが死んだ時に、少し悲しそうなオルフェウスの所に女が行って「あなたね、奥さん死んだんだよ!そんな態度でどうするの、もっと深刻な話だろう」と説教すると、オルフェウスが逆ギレしてか、本音むき出しで「自由だ!(Freiheit!)」と叫ぶ所など、実にテレビコント的だ。後でハンスさん達に訊くと、そこが気に入らない人もいて評価は毀誉相半ばしているそうだ。まあ伝統的な演出を知らないので自分では何とも言えない。

 この日の指揮はヨアナ・マルヴィッツ(Joana Mallwitz)という人だった。でも、もうすぐ指揮者を辞めると言う事だった。まあこの世界も色々あるので、嫌になる人もいる。身につまされる所だ。そう言えば私が好きだった第1カペルマイスターだったクルベルタンツ(MIchael Klubertanz)さんはどうしているのだろう。気になって聞いてみた。彼は2007年に職を辞し、シュツットガルト音楽大学のオペラ科の先生になっていた。多分彼を最初に認めたのは私だ(エヘン)。彼が良いと言った時のハンスさん達の反応はそれほどでもなかったが、その後段々と一緒にいろいろやっていた。彼のHPがあり、カールスルーエ室内オーケストラ(弦楽)という所の指揮者もしている様だ。

 長いオペレッタも終わり、近く(5分は歩いたからそう近くでもないか)の店で食事をする事に。夜が更けると大分冷えて来た。こうした温度差の為にドイツでは着るものに困る事が多い。さて、行った先だが、TATIという名の店だった。50年くらい前のフランスの演出家で俳優だった人の名前から取ったのだそうだ。もちろんオーナーがファンと言う事。

 そんな訳でここのメニューはフランス語で記されている。ドイツ語もあるが料理の様子が今ひとつ分からない。長谷川さんやハンスさんでも読んだだけでは分からないので、どんなものか訊いてもらって注文するが、もうストーブの火を落としたので(11時過ぎていた)、温かいものは余り無いと言う。その中でチーズを焼いてある料理があるというので頼む。ドリアかグラタンの様なものを想像した。料理が来てみるとチーズは羊乳のもの(Schafs Kaese)だという事だが、皿のほとんどは生野菜で占められ、横にオーブンで焼いた200g程のチーズがあり、そこにバゲットを切ったものが付いて来た。温かい料理と言うには程遠かったけれど、腹も減っていたので早速一口。これが実に美味い。パンに塗って食べるとビールと良く合う。ビールはもちろんヴァイツェンなのだが、クリスタルヴァイツェンというのを頼んでいた。これはレモン入りで、昔ウィーンで飲んで以来だ。ウィーン以来というのはちょっと違うかなあ。新橋に銀河高原ビールがあった時にレモンを浮かべてもらって以来だ(後日、ドイツ料理屋になったこの店に行くと、メニューにクリスタルヴァイツェンが!)。これはやってみないと分からない美味さなのだ。Radlerという飲み物がある。これはビールのレモネード割だが、同じような発想だろう。ヴァイツェンにレモン、富士には月見草がよく似合う‥かも。

さて明日は帰国だ。シュトラーセンバーンに乗り、ビスマルクプラッツまで戻りハンスさんとはここで別れる。長谷川まゆみさんとホルストさんはホテルの玄関まで来てくれた。短い滞在だったが本当に良い旅だった。