ニュースの読み方〜改革で問われる学問の自由

一橋大学学長選挙規則

 学長選で事前に学生が候補者の可否を問う「除斥投票」制度の廃止を検討している一橋大(東京都国立市)評議会が、学長選考規則改正の賛否を問うため、教職員による学内投票を18日に実施する意向を明らかにした。同大では先月30日、制度廃止に積極的な大学院経済学研究科の石弘光教授を新学長に選んでいる。賛否投票は今月下旬の人事発令前に規則改正に道筋を付け、問題決着を文部省にアピールする狙いがある。
 国立大の学長人事は文部大臣が発令する。除斥投票廃止を迫る文部省に対し、歴代の評議会は過去「早急に所要の措置を講ずる」などとする「約束メモ」を出して発令を受けてきた。廃止方針を打ち出した評議会は教職員による投票で白黒を決め、発令をスムーズに進める道を選んだ。
 制度廃止への“熱意”を文部省も好意的に受け止めているようだ。「ある程度の方向性が見えているので(発令は)スムーズにいくのではないか」(同省人事課)という。賛否投票が行われれば制度廃止賛成が多数を占めるのは確実とみられている。文部省が制度を問題とした1972年以降、初めて「メモなし」発令が実現しそうな気配だ。
 評議会は学生に対しては、「今後新しい学生参加の方法を考えよう」と提案しているが、学生自治会は「当事者をカヤの外に置く一方的な措置だ」と反発している。一部の教授や職員からも強い反対意見が出ており11日の教授会は紛糾した。
 大学が改正を急ぐ背景には、除斥制度存続が大学改革の流れのなかで不利に働く、という判断がある。
「予算が削減されたら」「独立法人化されたら」―――。
大学の生き残り競争が激化するなかで、文部省ににらまれると大変だ、との思いが強くある。
 研究環境の維持を心配する教員たちの心理は、石氏を新学長に選んだことで証明された。阿部謹也現学長も、学生一人ひとりにあてた手紙で「この制度にこだわって競争に敗れれば、当分の間一流大学という位置付けを捨てなければならなくなる」と述べたほどだ。
 除斥投票は戦時中に政府・軍部が教育に不当に介入した反省から生まれた。愛着を持つOB教授や卒業生にも多い。半世紀を経て制度が有効に機能しているかどうかの検証は必要だが、学生や一部の教授は、文部省主導の改革が学問・研究の「自由」「独立性」を失わせる恐れを感じとっている。一連の動きでは大学改革の中身と大学が持つべき理念の両方が改めて問われているといえそうだ。

毎日新聞 (オピニオンワイド) 1998年11月13日(金)付