声明
政府は最近の大学問題に対し、中央教育審議会の「当面する大学教育の課題に対応するための方策について」の答申の線に沿って、今国会中にも緊急立法措置をとろうとしている。
しかしながら、この「答申」は今日の大学問題を、それにふさわしい拡がりと深さとにおいて検討することをせず、基本的には学生対策的観点からの問題展開に終っており、したがって「方策」の方向も、大学管理機関の強化と学生自治の制限等に重点がおかれている。
さらに伝えられるところの緊急立法にいたっては、その「方策」を更に国家権力の直接介入によって補強しようとするものと解される。その発想は、警察力による規制強化、国家による大学閉鎖などの諸措置をいちいち指摘するまでもなく、全体としていちじるしく事件処理的、治安対策的な性質をもつものである。
われわれは、大学における研究教育に直接的責任を持つ立場から、経験的にも理論的にも、このような「答申」の趣旨ならびに立法措置を認めることができない。そもそも大学の管理運営は、研究教育の自由な発展という使命のゆえに、本来、各大学の自主的な判断に委ねられねばならず、画一的な法的規制を厳しく排除するものでなければならない。しかるに「答申」ならびに政府の方針は、これと全く反対の性格のものであり、問題を解決するどころか、かえって大学の生命を根底から危うくするおそれをふくむものである。
一橋大学は、昨秋以来、大学の不断の発展は所謂「教授会の自治」によっては不可能なことを認め、全学の意見を集結することによって新しい大学を創造する道を歩もうとしている。それは大学のいかなる紛争も改革も、国家の規制強化によって処理されるべきでないし、権力による強制は事態の解決をかえって困難ならしめるという根本認識にたつものである。
われわれは、全大学人が相互に支援しあって、この重大な大学危機を克服することを希い、ここにみずからの意見と決意を表明するものである。
昭和44年5月16日
一橋大学 評 議 会
商学部教授会
経済学部教授会
法学部教授会
社会学部教授会
経済研究所教授会
前期教授協議会
|