○<学生>
中間報告を見て思ったが、これは前回集会で言っていた「自主的な提案」だとは到底考えられない。A〜E案が提示されているが、文部省からのクレームに対してはいずれも抵抗できない。大体、本学が守るべきもの・基準もなしに、国立大学が厳しいという情勢論だけで対応を考えていくというのはいかがなものか。改革改革というが、これまでの一橋大学が積み上げて来た教育・研究の実績を誇りにすべきではないのか。
☆<学長>
教育・研究実績について誇るべきものがあるのは確か。しかし、現在の状況で「守るべきもの」といえば、我々の対応できる範囲での案では、学生・院生の参加形態の実質ということである。議論においては、提案に対する具体的な批判・対案がほしい。
○<学生>
文部省による学長発令遅延の際、大学側に争う手段がないとはどういうことなのか、なぜ訴訟を起こせないのか教えて欲しい。
☆<村井(法)>
文部省は大学を所轄する上部機関。下部が上部を訴えること、特に不作為を訴えるのは難しい。行政訴訟は国と一般市民との関係において、一定の申請行為に対する許可・不許可処分についての争いを対象とする。教育公務員特例法においては、学長発令というのは大学からの申し出による任命であって、行政訴訟は出来ない。民事賠償はどうかというと、国が一般市民に対して損害を与えた場合は出来るが、上下関係の場合は出来ない。(以下、裁判例の紹介の中で)判例では「明らかな手続違反がない限り、文部省は発令拒否できない」とされているが、損害賠償の請求は認められなかった。発令拒否という処分があったわけでなく、その遅れがあっただけとされたからだ。
○<学生>
感じたこととして。大学の現状には問題があるというが、受け身の姿勢ではないか。大学が主体的にやるという姿勢がみえない。制度を変えた先にどういう大学をつくるのか。(壇上にいる)評議員のそれぞれが考える大学像を示すべきではないか。学長の説明の中に、この問題についての学内議論が低調だったという指摘があったが、どういうことか。
☆<学長>
将来の大学像については議論を行なっている。イノベーション研究センターや新研究科の設置なども行なっている。それでも、現在の一橋大学における文理の分裂状態は悲惨ともいうべきもので、今後は自然科学的思考を取り入れた社会科学を目指したいと思っている。
また、A案でも出来ないことはないと思う。現在の選考制度が間違っているとは思わないが、それをめぐる本学の対応には問題があったわけで、文部省と本学の間のトゲになっている。本学がそのことを清算して「忘れましょう」と言っても、文部省も社会も忘れない。学長としては、大学の存続・維持を考えなくてはいけない立場にある。「検討した結果、(執行部の提案に)学内の賛同が得られなかった」ということになれば、それはそういうことになる。みなさんにも大学の将来を考えてほしい。
学生参加制度については、一橋だけが最後まで残っていると言われるが、実は最初でもあった。日本の社会の進みに比べて、先行しすぎていた。これを誇りに思うことも出来るが、研究環境の維持が必要。
○<院生>
中間報告は作為的。A案の問題点だけあげつらっているが、どの案であっても文部省に突っ込まれる余地がある。A案は厳しい、確認書方式しかない、という世論を誘導するものと言わざるをえない。
☆<学長>
そうは考えない。どの案も同じとは思わない。A案が駄目だという議論ではない。規則から制度を外して確認書に…というのは苦肉の策。胸を張って提案している訳ではない。
☆<村井(法)>
現在の方式の維持は、一橋の自治理念からみて捨てられない。文部省が実質にまで踏み込むのであれば、対決せざるをえない。そのことを理解した上で、苦肉の策を取るという提案。もしA案でいくのなら、学長発令遅延の際にどうするかという覚悟/対応を考えなくてはいけない。形式よりも実質を守りたい。
○<院生>
中間報告の書き方はフェアではないと言っているのだ。
☆<学長>
D、E案なら(学生参加制度が)表に出ないので、文部省も介入できない。このままで選挙が行なわれれば、文部省も困る。実際文部省も追い詰められているところがある。A案とD案とでは違いがある。D案の方式でやっている大学もある。現在の制度は間違っていないと思うが、現在の文教政策に合致するところがない。戦後民主化のような状況が再来すればまた別だが。
☆<安東(商)>
3年に1回メモ問題でじくじくやるのはロス。本来なら学長としての能力がある人でも、この問題があるからやりたくないという人もいる。これは多大な損失。
☆<山崎(経)>
本来なら全員にとって何がベストかを考えるべきだが、それでは各自の理想論が違いすぎて議論がまとまらない。よって、実質を維持するということで何か出来ないかというところから議論がスタートした。実質を守る可能性の高いものを、という議論が必要。単に全部の案が悪い、というの出は生産的ではない。どの案なら合意できてかつ実質を守れるのか、という議論が必要。
○<学生>
戦後50年が過ぎた今でも、一橋大の参加制度は先行しすぎていると考えているのか。日本の社会が追い付いて来て、追い風が吹いているという状況ではないか。それと、文部省が困っているというのはどういうことか説明して欲しい。本学だけでなく、文部省ももっと苦しまなくてはいけないと思うがどうか。
☆<学長>
現在の制度が時代の風潮の中でどういう位置付けを持つか、というのは面白い問題である。昭和40年代、学生運動の高まりの中で多くの大学が学生参加制度・規則を作った。その数年後、紛争の収まりとともに各大学は退行を迫られて来た。追い風とはいうが、社会党政権時の際の0.5%ほどの期待も全く満たされなかった。
文部省については、国会で一橋の制度が取り上げられる際、例えば自民党の文教部会による追及などがあった場合、対応に苦しむことになる。
☆<石(図書館)>
議論の流れをみると、理念論と戦略的・具体的な対策検討との二つの軸があるが、これ以外に、「学長を迅速に選出する必要性」というものがあるべき。文部省を苦しめるというのはカッコいいしマスコミもついて来るかもしれないが、文部省・国家権力はそんなものを歯牙にもかけないであろう。それよりも、学長を立てて大学が結束した方がいい。
A案は全面対決なので、学長が選出されないという覚悟をして議論すべき。それはそれで一つの選択肢。ただ、見直すと言ってきた約束は果たさなくてはならないので、具体的な議論をしなくてはいけない。
○<職員>
教官・学生の参加については他大学でも共感が得られるが、職員参加については世間でもあまり賛同されない。職員の大学管理・運営への参加についてもっと議論すべき。また、下部職員には大学の情報があまり伝わっていない。これに関して、学長選の職員参加制度は相当期待されてきた。大学における職員の行財政上の位置付け、情報公開の促進ということとともに、参加制度について議論すべき。これについては、評議員だけでなく事務の管理職にもよく考えてほしい。文部省との対応については、執行部の方でいろいろあるだろうから今は判断しないが、徐々に判断したい。
☆<学長>
今の発言から、職員に対する情報伝達が十分ではないという印象を受けたが、これは改善していきたい。全学のまとまった意思を形成する過程において文部省とあらかじめ交渉するということはなく、(その意思について)文部省から何らかの意見がきたら、その都度検討し対応する。
○<職員>
私は検討そのものには反対はしていない。ただ、参加制度を規則から外したからといって国立大学として生き残れるという保障、そのような見返りがあるとは思えず、(独立行政法人化・民営化という事態に)なるときにはなるだろう。メモ問題でじくじくするのがいやだという話があったが、そんな人の下では働きたくない。現在の規則にある「全学の意を徴して」という大事な文言の趣旨は、ぜひとも残して欲しい。学長の任期についても再考して欲しい。4年任期になれば、12年で1回分、メモ提出が少なく済む。
☆<学長>
制度を変えれば安泰であるなどとは考えていない。当面の問題についての対応である。「全学の意を徴して」については、規則の法に何とか残すようにしたいし、検討も始めている。任期については、改革案はいろいろあるが一応現状を基本にこの議論を検討しているので、また別に検討することになる。
○<学生>
先ほど安東教官が、メモ問題がいやだから学長をやりたくない人がいるといったが、そもそもそういう人は学長には相応しくない。むしろ、現行制度の正当性の主張は学長の任務の一つではないか。
☆<安東>
私は、そういう人がいるという事実を示しただけ。
☆<学長>
個人的には正当性を主張したいが、「所要の措置を講ずる」言明してきた責任は捨てられない。連続性は確保しなくてはならない。学外向け・学内向け言明の両立のために、検討委は設置された。
○<院生>
苦肉の策ということだが、その様に熱意を強調されることによってシラケ・反発を感じる。新研究科設置等の大学改革の進展が言われているが、そのために院生の研究条件は悪化してきた。大学改革は、研究教育条件の改善のためにやってきたのだとは思われない。学長が発令されないと大きな障害になるというが、想像できない。むしろ、「トゲを抜く」ことによってスムーズに大学改革が進むことに対する不安がある。現行制度は研究条件悪化への歯止めになっているのではないか。
☆<学長>
研究条件は確かに悪化している。だが、新しい研究分野に来た人はどうか。意欲に燃えた人が集まっている。保障すべき研究条件については、かつての相対的に少ない院生数を前提にして考えられたものであり、院生の数が相対的に増えた中では対応できていない。だが、他大学と比較するとよい条件ではないか。研究室を与えてきたことは評価してもらってもよいのではないか。
☆<石>
どんな組織でも頭(ヘッド)がいないと機能しない。学長がいないと、予算面では新規なことが何も出来ず、必要最小限の予算しかつかない。学長不在時の状況については、過去の歴史を紐解いてみれば、その時の大学の後退は明らかである。文部省に予算を握られている以上そうなる。現在の研究条件悪化の比ではない。学長が速やかに選出されるようにすべきだ。
○<院生>
私は先ほど言われた「新しい研究分野に来た」者だが、理念と現実とを簡単に切り離すことの出来る教官に驚愕した。文部省の行政は今やもうカッコ悪い。文部省が突きつけてくる「現実」とはどういうことか、ここの教官なら分かるはず。現行制度は、世間的にみたら普通のことでなにもおかしい点はない。教官がいつも黙っているのは不気味だ。文部省行政と大学自治について、もっと語って欲しい。
☆<学長>
理念にしたがった対応を取るということについて、自分の具体的な案を示してほしい。(若干のやり取り)
☆<学長>
理念と現実はどこで分かれるか。理念をいかに守るか、という議論をしている。分離させてはいない。
(文部省行政を批判する視点があり得るではないか、との指摘に)文部省も一応法律に則って行政を行なっている。現行制度に対する教特法上の疑義の指摘、それに対する本学の反論といった過程の中で、メモを出したことが問題なのである。
○<職員>
A案がいい、と言うしかない。戦略的なことは私たちが考えることではないのではないか。本当の意味での参加を維持してほしいし、その下でまじめに働き、責任を果たそうとしてきた。学長もそうなのだろうというようにみてきた。
○<教官>
私は阿部とは大学院で同級、理念の点では彼と同じところがあるだろうが、彼はかなり汚れた世界(文部省・反動勢力)に関わって来ざるをえなかった。大学の自治の理念を支えるのは制度だけではない。メモでの約束を果たすというが、メモ自体勢力関係の中で出されたもので、もともと汚れている。破棄すればよい。阿部学長にはそれを期待していた。ことは全くの力関係。しかし、今の大学には力がない。学長を突き上げるだけの力が必要で、それなしに理念を守ろうといっても学長が浮く。この制度を守ることは絶対に正しいが、我々には力がない。こんなことを言うのは非常に残念だが。
この発言を最後に、今回の全学対話集会は終わりました。