なにがでっきょんな
〜けいつーの讃岐弁講座〜

生まれてはじめて言葉の違いを知ったのは、小学校6年のとき。
家族旅行で東京へ行った時だ。電車のなかで普段通り妹と喋っていると
突然年配の女性が「どこから来たの?」と話しかけてきた。「高松!」との
返事に「あらそう。やっぱりお言葉がねぇ・・」と返されてしまった。

これ以来、讃岐弁に対して引け目を感じてしまい、今では見事に讃岐弁と
標準語の二カ国語を話せるようになった。テレビの普及や県外人の流入
ですっかり聞かれなくなった讃岐弁。その讃岐弁を後世に残すためにも
ここに書きとどめようと思う。

タイトルの「なにがでっきょんな」は、高松ではあいさつのひとつ。
シチュエーションとしては、何人かの人が集まって何かをしているところへ
やってきたときに、その仲間に入るべくかける言葉。

直訳すると「何ができているんですか?」になるが、実際はそんなことを
聞いているのではない。輪の中に入る「つかみ」みたいなもんである。
英語で言うところの「How are you doing?」にでもあたるだろうか。

まぁ、この言葉も覚えておいて損はない。


 【へしゃげる・ひっしゃげる】

 (自動詞) 下一段活用
カタチあるものがヘコむ様子。ぺしゃんこになること。

<例文>
「そこの四辻で車当てたが。」 (そこの交差点で車をぶつけてしまいました。)

「あらら。ドアんとこへっしゃげてしもうとるが。」 (あらら。ドアのところヘコんでしまってますね。)


 【どくれる】

 (自動詞) 下一段活用
意のままにならずふてくされる様子。

<例文>
「どしたんや。お前んとこの息子。人の顔見ても口もきかんが。」 (どうしたのですか。あなたのところの息子さん。人の顔を見ても喋ろうともしません。)

「こづかいくれんいうてどくれとんじゃ。」 (おこづかいをくれないからといってふてくされているのです。)

<補足>
主に人の動作について表すが、擬人的に使う場合もある。
アン入り餅を焼いて中のアンがアツアツで噴き出したような状態を「アンコがどくれる」という。


 【あずる】

 (自動詞) 五段活用
物事がうまくいかずに困っている様子。

<例文>
「国語辞典持ってきたぞ。」 (国語辞典持ってきました。)

「おぉ。字がわからんであずっりょったんじゃ。」 (おぉ。字がわからなくて困っていたところです。)


 【うまげな】

 (形容動詞?)
「おいしそう」という意味ではない。立派そうな・・高価そうな・・・よさそうな・・・といった意味である。
 「〜げ」という表現は「〜そうな」という意味で他にも使われる。「うれしげな」「しよったげな」

<例文>
「俺、新しい車買うたんや。ほら、それじゃ。」 (私は新しい車を買いました。ほら、それです。)

「うわぁ。うまげな車買うたのぉ。俺も欲しいがぁ。」 (うわっ。立派そうな車買いましたね。私も欲しいです。)


 【しゃんしゃん】

 (副詞)
取り引きがまとまって手を叩くことではない。変形として他に「しゃっしゃ」という言いまわしもある。
擬態語だろうか。標準語で言うと「さっさと」に当たる。意味としては「早く」。

<例文>
自動販売機にて
「えーと。どれにしようかぁ。」 (えーと。どれにしようかなぁ。)
しゃんしゃん決めぇ。俺が買えんがぁ」 (さっさと決めてください。私が買えません。)

他に「早くしろ」の意味で「しゃんしゃんせぇ〜」「しゃっしゃせぇ〜」という言い方もできる。


 【めぎる】

 (自動詞) 五段活用。
壊すこと。壊れること。西讃では「つぶす」と言う。

<例文>
「あら?この自転車チェーンがすぐはずればっかりする。めぎたんかいの?」 (あれ?この自転車のチェーンはすぐにはずれるばかりだ。壊れたのかな?)
「お前がめいだんとちがうんか?」 (あなたが壊したんじゃないですか?)

 【おらぶ】

 (自動詞) 五段活用 
大声をあげて叫ぶこと。主にけんか腰で叫ぶさまを表す。

<例文>
「こら!人の部屋に勝手に入るな!」 (こら!人の部屋に勝手に入らないでください!)
「そんなおらばんでもええやん」 (そんなに大きな声で言わなくてもいいじゃないですか)

 【まける】

 (自動詞) 五段活用
水のようなものがこぼれること。あふれること。
必ずしも水のような液体に限らない。パチンコの玉とか土なんかもオッケー。

<例文>
「よそ見しながらジュース入れよったらまけるぞ。」 (よそ見をしながらジュースをついでいたらこぼれますよ)

表面張力でいまにもこぼれそうな状態を「まけまけ」と表現する。
応用でおしっこが我慢できない状態を「おしっこがまけまけや。」とも使う。

 【お腹がおきる】

 (自動詞) 上一段活用
腹がたつことではない。お腹がいっぱいになること。

<例文>
「もうこんなにようけ食べられん。お腹おきた。」 (もうこんなにたくさん食べられません。お腹がいっぱいです。)


 【くらす】

 (自動詞) 五段活用
アタマを何かにぶつけること。またはげんこつ等で殴ること。

<例文>
「いつまでも言うこと聞かんのやったらくらすぞ。」 (いつまでも言うことを聞かないのなら殴りますよ。)
さらに憤りを表す場合は「くらっしゃげる」になる。


 【おかっこ・おかっこまい】

 (名詞) 
正座のこと。子供に対して使う。

<例文>
おかっこにしよ。」 (正座しなさい。)
さらに座るという意味の「おっちん」と複合して使う場合が多い。
おかっこまいにおっちんしよ。」 (正座して座りなさい。)


 【しょうたれ】

 (名詞) 
服装がだらしないこと。ズボンからシャツが出ているようなときに使う。
「〜げ」をつけて使う場合もある。

<例文>
「あんたしょうたれみたいなカッコせんとちゃんとしよ。」 (あなたはだらしない服装をしないできちんとしなさい。)


 【おとっちゃま】

 (名詞) 
おぼっちゃまではない。気の小さいおくびょうもののことを言う。私も小さい頃によく言われた。(笑)

<例文>
「この子はおとっちゃまやけん、そんなことようせんわ。」 (この子は気が小さいからそんなことはできません。)


 【おびっこ】

 (名詞) 
おしっこではない。魚のことである。主に子供に対して使う言葉である。

<例文>
「肉ばっかり食べんとおびっこも食べよ。」 (肉ばかり食べてないで魚も食べなさい。)

似た言葉で「おぶ」というのもあるが、これは「お湯、お茶」を指す。


 【じょんならん】

 (?) 
どうにもならない。手にあまること。

<例文>
「すまんけどうちの犬預かってもらえんな?」 (すみませんがうちの犬を預かってもらえませんか?)
「あんたんとこの犬や誰にでも吠えまわるけんじょんならんわ。」 (あなたのうちの犬は誰にでも吠えるからどうにもできません。)

似た意味で「手に負えん」というのもある。


 【〜がん】

 (形式名詞) 
「〜ぶん」という言葉にあたる。

<例文>
「おっさん。焼き芋いた。」 (おじさん。焼き芋ください。)
「なんぼがんな?」 (いくらぶん入りますか。)
「100円がん。」 (100円ぶんです。)

たいていは金額が前にくるが、それ全部という意味で「まんでがん」という使い方もある。


 【〜いた】

 (?) 
これは高松では基本的な言葉。「〜してください。〜をください。」にあたる。

<例文>
「お前、その週刊誌もう読まんのか?」 (あなたはその週刊誌をもう読まないのですか?)
「うん。もうほうっといていた。」 (はい。もう捨ててください。)

「あ、タバコがもう無い。すまんけど1本いた。」 (あ、タバコがもう無い。すみませんが1本ください。)

西讃の方では、この言葉は通じない。「〜いた」の代わりに「〜つか」が使われている。


 【〜まい】

 (?) 
強い口調では「〜しなさい。」 柔らかい口調では「〜すればいいですよ。」

<例文>
「このお菓子食べてもえん?」 (このお菓子食べてもいいですか?)
「うん。好きなだけ食べまい。」 (はい。好きなだけ食べればいいですよ。)

自動販売機にて
「えーと。どれにしようかぁ。」 (えーと。どれにしようかなぁ。)
「しゃんしゃんしまい。俺が買えんがぁ」 (さっさとしなさい。私が買えません。


 【がい】

 (形容詞) 
ものすごい。強い。または気が強い。

<例文>
「ちょっとそこのロープ引っ張って」 (ちょっとそこのロープ引っ張ってください。)
「こうか?」 (こうですか?)
「もっとがいに引っ張って」 (もっと強く引っ張ってください。)

「お前の妹はがいげな娘やの。」 (あなたの妹は気が強そうな娘ですね。)


 【じゅじゅむ】

 (自動詞) 五段活用 
これまたインパクトのある言葉である。じゅげむじゅげむ似ているが、これは非常に限定された状態を
表す言葉。
紙などに水性のサインペンなどで書いたものが、水でにじむ様子を言う。擬態語でしょうか。

<例文>
「ちょっとここに住所と名前書いてくれるな?」 (ちょっとここに住所と名前書いてもらえますか?)
「はいはい。あらら。紙が湿っとるけんじゅじゅんでしもうたが。」 (はいはい。あらら、紙が湿っていた
からにじんでしまいました。)


 【ごたい】

 (名詞) 
身体のこと。五体満足の五体からきているのではと推測される。

<例文>
「あんた若いけん、ごたいじょうぶやろ。」 (あなたは若いから身体は丈夫でしょう。)
「いやいや。もう年やからごたいが言うこときかんわ。」 (いえいえ。もう年ですから身体が言うことを
ききません。)


 【よもよも】

 (?) 
「よくもまぁ」だろうか。「〜できたもんだなぁ」的な言葉が続く。あまり肯定文では使われない。

<例文>
多額の借金がある親戚の家へさらに無心を頼みに行った場合。
「よもよも。貸した金返しもせんで、どのツラ下げて来たんや」 (よくもまぁ。貸したお金を返すことも
しないで、どんな顔して来たのですか?)


 【とばとば】

 (?) 
落ち着きがなくキョロキョロする様。

<例文>
「とばとばしょったら転ぶんで。」 (前を見ずにキョロキョロしていたら転びますよ。)

 【はずむ】

 (自動詞) 五段活用 
ちょっと汚いが、小便や大便などが我慢できない状態を表す。

<例文>
「長いことバス乗っとったからおしっこがはずむわ。」 (長い時間バスに乗っていたからおしっこがもう
我慢できません。)

 【べっちょ】

 (名詞) 
ビリのこと。

<例文>
かけっこにて
「お前には負けんぞ。」 (あなたには負けませんよ。)
「なにっ!お前にまで抜かれたらべっちょやが」 (なにっ!あなたにまで抜かれたら私はビリです。)




不可解な讃岐弁。これからも続々と紹介します。