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「チェロ合奏曲『新たなる旅立ち』〜改訂版〜ボルモント・チェロ合奏団のための」作品154-2
“Cello Ensemble THE NEW BEGINNING (revised edition) for Vollmont Cello Ensemble” Op.154-2
2000年の夏に思ひ浮かんだ旋律を書き留めておいたものを2002年のボルモント・アンサンブルの合宿を前にチェロ四重奏曲として加筆・再構成したのが初版。正にボランティアといふべき合宿参加者の皆さまのご協力により試奏の結果、アンサンブルとして弾きにくいところやリズムの不整合などの問題が表面化し、それを改善すべく改訂したのが改訂版。ゆゑに作品番号はそのまゝで子番号を付した。また、献身的な試奏への協力と惜しみないアドバイスに多謝の意を籠め、タイトルに“for Vollmont Cello Ensemble”を明記した。
演奏時間およそ3分17秒間には、ごく短かいドラマが描かれてゐる…はずである。以下参考に、作曲者がどんな思ひでスコアを書き、どんなふうに演奏されることを望んでゐるか、といつたことを曲の進行に沿つて記してみたい。
冒頭〜Aの前まで[小節番号1〜8]
曲の基調となるメロディ(後述)の出だし部分をもとにした音形。第2パートがメロディパートで第3パートはその応答、第1パートは色づけ、といつたところか。
こゝは、これから始まるドラマの導入部(イントロダクション)であることは当然だが、その気持ちは一言で言へば‘決心’であり‘新たなる旅立ち’そのものなのだ。
A[小節番号9〜24]
イントロがデクレシェンド気味に落ち着いた後、第3パートが曲の基調となるメロディを提示する。決心を固めた者が持つ強い意志が感じられるだらうか。第3パートはそれゆゑにマエストーソの雰囲気が望ましく、第2パートは忙しくても心の安定を忘れずに淡々と弾くことが望ましい。そして、第1パートは、決心を固めた主人公を遙か彼方の天空から見守る神のごとしロング・トーンである。
B[小節番号25〜40]
こゝは言はゞ第2主題。メロディは第1パートに移りAの部分の気持ちを引き継ぐ。それは、‘決心’を肯定し‘旅立ち’の行く手に‘希望’を予感させ、その予感はより強固な‘確信’となつてBを終へる。第2,第3パートはそれぞれ花を添へる役割。第2パートは管弦楽のホルンの響きを想はせ、第3パートは弦楽や金管を連想できるかもしれない。
Bの部分は、なかなかに気持ちの良い掛け合ひになつてゐる…はずだ。
C[小節番号41〜56]
雰囲気が変はり主人公はしばし過去を振り返る。‘新たなる旅立ち’を決心したとはいへ心の奥底には翳りのある過去が残つてゐる。それを今一度払拭するためにも回想が必要となるのだらうか。
怪しげなハーモニーが決心したはずの心を乱すかのやうにまつはりつくが、やがて静かにほぐれ、再び‘決心’を取り戻すことになる。メロディは第3パート。メゾ・フォルテの表示がその微かな兆候だ。ピアノの表示がある第1パートは(特に後半は)オーボエの音色を思ひ浮かべながら弾いてほしい。
D[小節番号57〜72]
さて、回想が終はると再び‘旅立ち’へ向けた‘決心’が謳はれる。この部分はパートの役割を明確に整理し直したので、初版と比較すると格段に弾きやすくなつてゐるはずだ。
メロディは第2パート。Aの部分とほゞ同じだが、さらにしつかりとした足取りで弾くと、回想であるCの部分とのコントラストが明瞭になるだらう。
E[小節番号73〜最後]
いよいよドラマは終盤へ。こゝでは再三登場する‘決心’の主題が繰り返され、ますます強固な意志が確かめられる。それだからか、パート構成は第1,第2と第3,第4に明確に二分され、あたかも二重奏のやうな役割分担となる。なほ、第3パートと第4パートは今回の改訂で同じリズムとしたが、やはりこの方がよい。これもご指導のたまものであり、先生のご助言が的確だつた証になつてゐる。
小節番号80以降は結尾(コーダ)に相当し、フォルテの数が次第に増えつゝドラマが締め括られる。終はりから4小節目の五度音程の安定感は、プロの作曲者には面白くも何ともないだらうがそれを平気で書けるのがアマの特権だと思つてゐる。強固な意志を乱さないためにも、最後のフェルマータの直前までは、テンポをメトロノームのやうに正確に維持するのが望ましい。
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このページは長谷部 宏行(HASEBE, Hiroyuki)からの発信です
(2017年4月9日版)
web初版は2014年5月10日(執筆は2004年4月19日(頃))