BLUE GIANT
 とても久しぶりに音楽映画を観たくなつて劇場へ足を運んでみた。
 ロックバンドとジャズバンドに関して同意しかねる台詞もあつたが、それはまあ見解は人それぞれだから別に問題はない。物語は多少の盛り上がりもあるが無難な線で落ち着くので、面白みには欠けるが安心して楽しめた。
 ドラムは初心者から(ほゞ)頂点に達する極端な話になるが、箆棒な熱さが漲るテナーサックスの主人公がゐることもあり、わざとらしさが軽減されてゐたのは不思議だつた。もしかしたら若さ故か?
 ちなみに、ピアノ兼作曲担当の苦悩を織り交ぜながらの成長は、物語的には実はこちらの方が主人公ではないかと思つた。
 で、何より超本格派のジャズが満喫できるのが最大のウリにして最大のカヒ。家庭では到底味はへない大迫力の音で熱演を聴けたので大満足だつた。
 役者がいくら頑張つても楽器演奏は奥が深くて難しい・・・ならば(演奏家によるモーションキャプチャー技術も使ひながら)アニメーション作品に仕立てる方が本物のジャズを聴かせられる、といふ制作側の意図は大いに首肯できるもの。
 ドラムの演奏を吹き替へたプロの演奏家は初心者らしさを演ずるのが難しかつたらしいが、(音楽愛好家ではない)一般の映画愛好家にはもしかしたらわからないほどの微妙なものだつたかもしれない。
 BLUE GIANTの青は青春の青などではなくもつと凄い青─熱過ぎるが故に青く輝く巨星─といふことが明らかにされたが、その言葉に納得できるだけの熱い熱い音楽演奏の世界が見事に描写されてゐた。
 原作は「音が聞こえてくる漫画」と言はれてゐるさうだが、この作品は「聴く醍醐味が存分に味はへる映画」だと思つた。
 (2023年3月22日、川崎チネチッタ(チネ8))

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2023年3月25日版