タイタニック
11月1日、みゆき座でタイタニックを観てきた。もう公開されてから1年近くになり、廉価な家庭用ビデオが発売されるといふことも知つてゐたが、たまたま日比谷へ行つた折、「まだやつてたのか」と思ひつゝ、所持金も時間も都合がよかつたので、その日の最終回(18時半頃〜)の切符を買つた次第。さすがに席はガラガラだつた。
あまりの評判ぶりに、生意気にも「本当かいな?」と思つてゐたので、まさか自分が(、それも独りで(!!)…笑)映画館で観ることになるとは予想もしなかつた。しかしだ。この映画は実によくできてゐる、と感心した。感心する前に感動したんだけど、まあそれはお約束といふことで多くは言はないでおかう。
「滅多に映画館に行かないもんだから、たまに大作を観るとなんでも感心するんぢやないの?」と言はれゝばそれまでだけど、あの3時間に迫る長さに飽きがこなかつたんだね、これが。なにしろいろんなことが描かれてゐた。特撮による海難事故描写や細部にまで忠実に再現された船自体も、確かにそれはそれで苦労も少なくなかつただらうけど、私としては、フィクションも含めた物語だけでも充分に味はうことができた、と思つたね。もちろん「ぢやあ映画ぢやなくたつていゝんぢやないの?」と問はれゝば、さういふことでもない。やはり音楽や具体映像で見せてくれる映画だからこそ、あれだけ感動できたんだと思ふよ。
「描かれてゐた多く」に「感心したこと」は、例へば次のやうなものだ。もちろん人それぞれだから異論もあるだらうけど。
1.階級差別に関して
3等客を閉じ込めたこととかもあるけど、ボートの上で(まだ海上に残されてゐる人たちを)「助けに行かう」といふ台詞を言つたのは、上流階級とはいへ成り上がつた人、つまり元は中(あるいは下)流階級の人だつた。さういへば彼女はジャックに礼服の世話もしてゐた。
2.恋愛に関して
出会ひから、第三者との葛藤とそれを乗り越えて深い信頼関係に至るまで、男女の間に起こる実に様々な場面が織り込まれてゐた、といふ点。喜怒哀楽それぞれの恋愛状況が、短い時間に凝縮されてゐると思つた。
3.性差と生命力に関して
まあこれは、逆だつたらと考へれば、当然誰もが否定的な結論を下すと思ふけど、やつぱり2人のうち生き残つたのがローズだつたといふのは大正解だよね。なんだかだいつても男より女の方が強いのだといへやうか。
それと、自殺を思ひとゞまらせたのも最後まで諦めるなと諭したのもジャックの方だつた。この辺りになると、場合によつては男女差別だと怒るむきもあらうが、個人的には実に自然な結果だと思ふのだ。
4.過去を回想する形
私はかなりこれが好きだつたりする。「過去を振り返るだけぢや未来は拓けない」なんて声も聞こえさうだけど、過ぎ去つた過去を懐かしむのが好きなのだ。
84年の歳月を経て蘇つた誰も知らなかつた真実。ジャックの存在そのものに対してさへ感慨が深くなる…。ま、ジャックについてはフィクショんなんだけどね。
5.弦楽四重奏団のこと
おもむろに讚美歌を弾き出したバイオリニストの手つきに、たゞ者ぢやないなと思つたのだけど、案の定彼はプロのバイオリン弾きであつた。後で知つて驚いた。と同時に演奏家の手つきを見る目があつたといふ点では素直に嬉しかつた(。はい、自己満足です[笑])。
6.音楽に関して
ホーナーの創つたメロディーがまた絶品だつた。アカデミー賞を取つた主題歌もさることながら、女声スキャットで歌はれるテーマが実にいゝのだ。『アメイジング・グレース(至上の愛)』を彷彿とさせるメロディには、多くの人が魅了されたことだらう。
7.ラスト・シーンに関して
最後の最後にも胸が熱くなつてしまつたよ。
現実では苦難に満ちた恋愛だつたけど、84年目の夢の中で、皆に、現実では決して祝福してはくれなかつた人も含めた皆に、祝福され喝采を受ける…。
このラストは、いつ思ひ返しても涙が出さうになるんだ。
と、まあ、いろいろと書いたけど、一感想といふことでね。
だけど、本当によくできた映画だと思つた。家庭用ビデオももちろん買つたので、またゆつくりと観てみたい。
(1998年12月)
後記:ビデオは字幕版と吹替版を買つたのにDVDまで買つてしまつた
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このページは長谷部 宏行(HASEBE, Hiroyuki)からの発信です
2017年4月9日版
(内容については実質的には2000年5月12日版)