絶妙な音楽
星の数ほどある音楽で、私が聴いたものは、ほんの砂粒一つぶん程度かもしれませんが、そんな数少ない経験で、特に心に染み入るものがいくつかあります。こゝにご紹介するのはいづれもテレビ番組のための音楽で、私にとつての絶妙な音楽の一例です。
黄昏のワルツ (加古 隆)
しんみりとしたピアノとそれに呼応するソロ・バイオリン。次いで重く厳しい弦楽。しかし、徐々に生命力が湧き上がり、いつしか明るい光が見えてきます。
NHKの『にんげんドキュメント』といふ番組の主題曲ですが、番組の具体的内容は毎回違ふのに、これ以上は考へられないほど放送内容に毎回よくあつてゐるのです。この見事な絶妙さの秘密が最近わかつたやうな気がします。それは、楽しかつたり辛かつたりで登場人物の感情は違つても、ひたむきに生きるといふ共通点があるわけで、そんな懸命に生きる人の姿に、この音楽はぴたりと合つてゐるのだと思ふのです。
同じくNHKの『映像の世紀』のために書かれた『パリは燃えているか』にも‘歴史の重み’を感じさせる絶妙さがありましたが、この『黄昏のワルツ』は、絶妙さとともに温かな余韻も残る逸品です。
レコード(CD)がソニーから何種か出てゐます。
日本 映像の20世紀 (千住 明)
特に Ending Theme 。温かな弦を中心に、淡々としながらも豊かな感情をもつて進むメロディ。
無性に懐かしさを覚え、かつ、確かに存在した人たちの記録を末永く伝へていかうではないかといつた意志が感じられるところが、私にとつては何とも絶妙に思はれます。
NHKの同名の番組のための音楽。レコード(CD)は日本コロムビアから出てゐます。
利家とまつ (渡辺 俊幸)
特に主題曲。フル・オーケストラを存分に鳴らして、愛と悲しみと戦ひの日々を描く数分間。
こゝで私が感じた絶妙さは、メロディ、ハーモニー、オーケストレーションを駆使して前述の主旨がよく描かれたといふだけではありません。前半の溢れんばかりの夫婦愛がまぶしい音楽は特にすてきですが、これだけでは絶妙といふほどにはなりません。では何が絶妙なのか。勘違ひかもしれませんが、曲の終り近くで聞こえる響きに、私は安堵感と緊張感とを同時に感じてゐるので、それが絶妙だと思ふのです。
プロの作曲家の手に掛かれば、安堵感と緊張感を同時に感じさせることくらゐ朝飯前かもしれませんが、同じやうな感覚を味はつたことが、さうはないやうな気がしますし、あつたとしても、これほど強く感じたことはありません。それほど、今回のこのNHK大河ドラマの主題曲は(少なくとも私にとつては)出来がいゝと思ふわけです。
こちらは毎週放送中ですが、レコード(CD)の発売も楽しみです。
後記:CDが4月新譜で発売されました。主題曲は『颯流』といふ題名がついてゐました。聴いてみると、『颯流』のほかにもすてきな音楽がいつぱい。『利家のテーマ』はハリウッドの響きが濃厚で聴き応へ充分ですし、『まつのテーマ』では慈愛の豊かさがこぼれんばかりでした。
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このページは長谷部 宏行(HASEBE, Hiroyuki)からの発信です
2002年3月11日初版/2002年5月3日加筆/2003年2月13日一部修正/2017年4月9日metaコード追記
(内容については実質的には2003年2月13日版)