ランドルフ・スコット、アン・リチャーズ、それにジョージ・ギャビー・ヘイズの三人が主演で、
「怒りの夜明け」のティム・ウィーランが監督する1946年作品。「静かなる対決」と同年だから、
申し分なく古風な作品です。
合衆国の地図で、オクラホマ州の左上隅から西に伸びる短冊状の細長い地域が、テキサス州の北の州
境に接していますが、この地帯は19世紀末に、どの州や連邦にも属してなかったそうですね。つまり
アメリカではなく、政府などの司法権の及ばない無法地帯です。
スコットの主人公はテキサスの保安官で、保安官補である弟と、ジェシー・ジェームズ兄弟を追って
いますが、いろいろあって、負傷した弟がこの地帯の首都みたいなクイントの町で、ジェームズ兄弟の
世話になって療養しており、主人公もこの町では何の権限もなく、かえってジェームズ兄弟と親密にな
ります。なにしろ町には、ジェームズ兄弟のほか、ダルトン兄弟、サム・バス、ベル・スターなどがご
滞在です。
そんな無法地帯なら定めし殺伐かというと、決してそうでなく、市長もいるし新聞も発行されていて、
主人公は女性新聞社主のリチャーズと親しくなります。つまり、無法地帯で官憲の力が及ばないから、
お尋ね者たちも安心して避難所にできるのであって、ここで暴れるわけではありません。町を何周かす
る競馬が催されてベル・スターが勝ち、この馬に賭けたインディアン部族が賞金をかっさらったりして、
皆、結構愉快にやっています。悪党は非道な捜査をする連邦保安官のハンプトンです。
G・ヘイズの演じるコヨーテはジェームズ兄弟の仲間で、この人はあんな髭面だから、大抵の作品で
コメディ・リリーフ的な感じですが、ここではちょっと違いますね。無法者ながら義理と人情は曲げな
い心意気の西部男です。主人公の弟が死んで、主人公とコヨーテの二人だけで埋葬する時、コヨーテが
ハーモニカで吹く葬送の「俺を荒野に埋めないでくれ」には、しんみりした情感があります。コヨーテ
が、死を予期しながらも、ハンプトンの脅しに屈せず撃たれて死ぬ場面も、いつものヘイズの役柄から
は珍しいです。
フランク・ジェームズ役はトム・タイラーで、ジェシー・ジェイムズはローレンス・ティアニー。
この二人は数年後のロバート・ライアン主演の「荒野の三悪人」でも、全く同じ役をやってるんですね。
T・タイラーは「駅馬車」での殺されっぷりがよかったから、どちらかといえば私は好きなんですが、
失礼ながらいろいろな作品で見かけるたびに、大根役者だなあと思ってしまいます。
ローレンス・ティアニーは、上記の「荒野の三悪人」や、ロバート・ショーのカスター将軍に対する
シェリダン将軍役などがあるようですが、あまり西部劇で見た覚えがありません。大体がギャング映画
系の人であり、比較的近年の映画ファン諸兄姉も、タランティーノ監督の「レザボア・ドッグス」で、
フィルム・ノワール版の老クラントンみたいだった彼を覚えているかも知れませんね。
[2006年9月11日 23時5分50秒]