1970年代のアメリカ西部。留守中に妻を無法者に殺された獣医のデイビット(ジェームズ・カーン)
が、息子を預けている寄宿学校で、同じように娘を預けているジャンヌ(ジュヌビエーヌ・ビュジョルド)
と出会う。ジャンヌも、写真家の夫とフランスから移住してきて、夫を無法者に殺されていた。二人は
やがて愛し合うようになるが……
『男と女』の設定をそっくり西部劇に置き換えたラブ・ロマンス。
二人をとりまく風物と、それがかもす素朴な詩情は前作よりも優れていると思いますね。
それと、移民の国アメリカを観察するルルーシュの史家としての姿勢にも驚かされました。
“フランス移民の視点が把えた西部ロマン”といっていいでしょう。それに、ルルーシュ演出を支える
俳優陣がいいんだなあ。
演技的に一番円熟している頃のジャエームズ・カーンとジュヌビエーヌ・ビュジョルドの二人が
素晴らしいのと、二人の傍役がバツグンにいいんですよ。
一人は寄宿学校を経営しているスーザン・ティレル。娼婦だったために子どもが産めない身体と
なり、子どもを育てる職業に生きがいを感じている女性。
子供たちに文字を教えるのに、ビリー・ザ・キッドやサム・バスの無法者や拳銃用語を教材にして
いるなんて嬉しいじゃありませんか。
息子に拳銃の射ち方を教えるカーンが、息子の腕前を見て驚き、
「誰に習った?」と尋ねるシーンには口許が緩みましたね。
もう一人は、駅馬車の馭者役のリチャード・ファンズワース。ビュジョルドの写真館で、写真を撮って
もらうのですが、スタジオにはニューオリンズ、ウエスト、パリの3種類の背景が用意されています。
客がくるたびにビュジョルドは、背景をどれにするか尋ねるのですが、その答えはいつもパリでした。
ところが、ファンズワースは間髪を入れずに“ウエスト”と応えるんですね。西部の男としての誇りが、
この短いシーンに凝縮された見事な演技でした。
ルルーシュ作品の多くは、フランシス・レイの音楽にひっぱられるところがあるのですが、この作品で
はレイの主題曲を必要としておらず(人生のテーマ曲としてベートベンの“運命”を使用)、新鮮な感じ
がしましたね。
西部劇ファンはもとより、映画ファンにもっと再評価してもらいたい作品です。
[2002年7月7日 20時35分27秒]