「誉の名手」は1917年の作品でジョン・フォードが初めて作った長編の西部劇で
、主演はハリー・ケリー、所謂、シャイアン・ハリー・シリーズの一本である。
ストーリーは農民とカウボーイの水争いがテーマとなっており
「シェーン」や「大いなる西部」と同様のプロットだ。
映画はアイリスで始まり一方のカウボーイのボスを映しだす、
近景に彼の姿を置き俯瞰で遠くに牛の群を見せる、その構図はロケーション派のフォードらしい奥行きを感じさせるショットで、
このような練りに練った画面が随所にあらわれる。物語はゆっくりと進む、
ハリーと、もう一人の殺し屋フレモント:駅馬車のベスター・ペッグ:がバーで酔っ払う場面など、
二巻物を五巻に引きのばした為の様にも見えるが、フォードが後年よくやった、
自分の気に入ったシーンはとことんカメラにおさめてしまうという癖が出ているように思う。
圧巻は後半、農民達を襲うカウボーイと、彼らを助けに来るハリーの仲間のカット・バックの展開である。
:フォードの好きなアクション、渡河のシーンが見られる。:
そして、大団円、ちょっと不思議なエンド:言はないでおこう:けれど、ハッピー・エンドにおわる。
「誉の名手」には後のフォード・タッチの萌芽が各所に見られ興味は尽きない。
フート・ギブスン扮するダニーが登場する時のドア越しのショットは「捜索者」のジェフリー・ハンターそのものだし、
ライフルを抱え決闘に向かうシャイアン・ハリーは「駅馬車」のリンゴォ・キッドを想い興させる、
ダニーとハリーが語り合う場面は「馬上の二人」のジミー・スチュワートとディック・ウィドマークを連想させる。
そして、ハリーの孤独や心情は「索者者」のイーサン・エドワーズを彷彿とさせるのだ。
フォードが最高の西部劇スターは誰かときかれた時、ハリー・ケリーと答えているのは、
この作品をみれば充分に頷けるのである。
[2008年3月27日 10時41分38秒]