リチャード・ディックスは「シマロン」が代表作でしょうが、私が見たいのは通俗西部活劇ですから、
エドナ・ファーバー女史原作の文芸大作の映画化などというのは敬遠で、「シマロン」はR・ディック
スもG・フォードも見ていません。私の見たディックスの西部劇は「硝煙のカンサス」と「銃弾」です
が、他にも何か見たいと思い、1942年の本作品(ウィアム・マクガン監督)にしました。
舞台がトゥームストーンなら、もちろん主人公はディックス扮するワイアット・アープです。インテ
リやくざのドク・ハリデイ(ケント・テイラー扮、「フロンティア・マーシャル」と同じく、「ホリデ
イ」でない)も登場しますが、別に肺を患っていて咳き込むという様子はありません。アープとドクの
関わりが主題ではなく、町に来たジョニーという若いカウボーイ(ドン・キャスル)が、無法者集団の
頭目のカーリー・ビルに誘われて悪事に加わりそうなのを、アープが正道に戻そうとするのが物語の心
棒として一本通っています。アープやドクの女性関係もなく、ジョニーが悪に走らないようにと、アー
プがジョニーの元恋人のルース(フランシス・ギフォード)を東部から呼び、これがヒロインです。
エドガー・ブキャナンという役者は、酔いどれ判事とか、職務不熱心な保安官とかが多く、どうも尊
敬すべき人物だった覚えがありませんが、悪人というほどの役はあまり見なかったと思います(「略
奪の町」では悪党の黒幕だったけど)。しかし、この作品では二挺拳銃のカーリー・ビルです。もっと
も、ああいう太り気味の人なのでいなせな西部男というわけには行きませんが、お芝居は上手ですから、
存在感のある悪役になっています。アイク・クラントン役はヴィクター・ジョリーで、「セントルイス」
に輪をかけた下卑たご面相でやってくれます。
OKコラルの決闘の後、ワイアットの弟のヴァージルが悪党に闇討ちされて死に、最後はカーリー・
ビル一味とアープたちの銃撃戦で、ビル一味は全滅し、町の悪を一掃したアープがジョニーとルース、
それに町民たちに見送られてトゥームストーンを発つ駅馬車に乗るのがラストです。
OKコラルの決闘を他の映画のように大詰めの山場にしないで、物語の中程に置き、カウボーイのジョ
ニーという人物を設けた物語構成はしっかりしていて、よくまとまっていると思います。OKコラルで
は、アープ三兄弟とドクの四人と、マクローリー兄弟にクラントン兄弟のこれも四人が、にらみ合って
言葉を交わすうちに撃ち合いになり、緊迫した出来です。アープ側はワイアット以外の三人が負傷し、
相手側はマクローリー兄弟とビリー・クラントンの三人が死に、アイク・クラントンは辛くも逃げ去り
ますが、彼も最後の撃ち合いで死にます。OKコラルの決闘が壮大な銃撃戦でなく、町内の空き地のよ
うな場所での近距離の撃ち合いなのは、他の作品よりも実際の出来事に近いのでしょう。
この映画でカーリー・ビル一味の「インディアン・チャーリー」をやっているチャールズ・スティー
ブンスという俳優は、ジェロニモ酋長の孫だそうですが、3年前の「フロンティア・マーシャル」でも
同名の「インディアン・チャーリー」です。ただし、役の内容は違います。彼は後年の「荒野の決闘」
では「インディアン・ジョー」ですが、これが「フロンティア・マーシャル」の「インディアン・チャー
リー」と同じ役柄です。「インディアン・チャーリー」役は英雄ジェロニモの孫でなければ務まらない
格式ある役だ、というわけでもなさそうですけどね。
[2007年11月19日 21時59分46秒]