ジョーン・ベネット、ランドルフ・スコット主演の1938年作品(本邦公開昭和14年)。ジェイ
ムズ・ホーガン監督という人は無声時代から大戦中までが活動期間だったようで、馴染みがありません。
南北戦争後の1985年、テキサス州インディノーラで、敗戦側の牧場主のアイヴィ・プレストン
(ベネット)が、カーペットバガーの悪徳役人ミドルブラック(ロバート・バラット)に、高額の税金
を課されて牧場を巻き上げられそうなところを、南軍の復員兵のカーク・ジョーダン(スコット)が助
け、差し押さえ寸前に顔の白いのが特徴の牛1万頭を連れて牧場を脱出します。ミドルブラックは北軍
騎兵の一隊を伴って彼らを追いますが、アイヴィたちはリオ・グランデ河を渡ってメキシコ領に入りま
す。
アイヴィの恋人のアラン・サンフォード(ロバート・カミングス)は元南軍大尉で、戦後も南軍の残
党を率い、メキシコのマクシミリアン皇帝を頼ってヤンキーをテキサスからを追い出そうと画策してお
り、アイヴィも彼に協力しています。一方、カークは戦後は全国民が協力すべきだという信条です。ア
イヴィは牛の群れをメキシコに運びたがりますが、カークがその不可能を説き、アイヴィも折れて一行
はレッド・リバーを越えて北上し、鉄道の通じたカンザス州アビリーンまで1,500マイルを行き、
これがチザム街道を辿った最初のキャトル・ドライブになった、という物語です。旅の途中、マキシミ
リアン皇帝は革命軍によって廃位、処刑され、辛うじて逃れたアランが一行に拾われます。
彼らは降雨、砂嵐、降雪などに耐えて進み、コマンチ族の襲撃の時は追跡して来た騎兵隊に救われま
すが、軍隊の拘束を受けます。しかし、コマンチ族が草原に放火して火攻めし、ミドルブラックが行方
不明になります。実は乱戦中に、カークの相棒の猟師のキャル(レイモンド・ハットン)が、トマホー
クを投げつけて仕留めたようです。騎兵隊長のニコルス中尉は、ミドルブラックが死んだと認められる
以上、騎兵隊は自らの判断で一行を援助するといって、カンザス州との州境まで護衛してくれます。
アビリーンの町では、来訪中のカンザス・パシフィック鉄道会社社長が、ホテルのバルコニーから町
民に、鉄道を敷いたがこの町はまだ未発展で採算が合わず、カリフォルニアまでの鉄道工事は中止し、
トピーカで折り返すことにする、と告げて、皆が意気消沈しています。カークが路上から社長に、「テ
キサスから1万頭の牛を連れて来て、貨車で出荷するならどうだ」と呼びかけ、町民の中にも「本当だ。
牛が来ている」と叫ぶ者がいて、町は元気を取り戻します。一方、アランは、「今度できたクー・クラッ
クス・クランという秘密結社と組んで、ヤンキーを追い出す」といいますが、アイヴィは「あなたの考
えは子供っぽい」といって、罠猟の旅に出発するカークとキャルを追います。
ベネット嬢は、苦難の幌馬車の道中でも、いつも美容院から出て来たばかりみたいなのがちょっとヘ
ンですね。牧童頭のチャカワラをやるウォルター・ブレナンは、当時40才そこそこでしょうが老人役。
アイヴィの祖母グランドナ役のメイ・ロブスンという女優さんは1858年生まれで、出身はオースト
ラリアだけれど、まさしく南北戦争の時期を生きた人です。当時ほぼ80才でも元気で、ミドルブラッ
クと酒を酌み交わして彼を酔いつぶし、牛の群れを出発させるあたりのお芝居は圧巻です。チャカワラ
の友達のアンクル・ダッド(フランシス・フォード)は、南軍の軍帽をかぶった老兵ですが、戦傷で片
足を失って棒みたいな手作りの義足をつけており、インディアンの火攻めの折りに命を落とします。埋
葬の場面でチャカワラが追悼の言葉を述べ、「勇士に敬意を捧げる」というニコルス中尉の命令で、北
軍騎兵隊が弔銃24発を放って消灯ラッパを吹奏するのが印象的です。
アビリーンの町で、スコットとベネットが御者席に座って馬車を進めている時、隣に並んだ馬車に、
この町で商売するつもりのサルーン・ガールか何からしい女性たち10人ばかりが乗っていて、「あら、
いい男ねえ」とか「お二人さんお似合いじゃない?」とか「私、あの背の高い人に惚れたわ」などと口
々に冷やかしますが、こういう華やいだ場面は後年のスコット映画には無縁ですね。「テキサス決死隊」
や「平原児」や「大平原」といった古風な西部劇の雰囲気ですが、牛の大群などは壮観であり、牛と幌
馬車が野火の中を逃げる場面も迫力があります。
[2008年1月12日 20時19分3秒]