作品名: 欲望の谷 - |
日本人は心のひだを一つ一つつむぐような人間ドラマをじっくり見せられると弱いらしい。 そういう作品に対する評価は概して高い。この作品はそれを見せる余地が大いにあった にもかかわらず、全編をすごいスピードで駆け抜ける活劇に仕立て上げた。スタンピード、 ガンプレイ、大火事に決闘、カラーシネスコ画面を存分に使った演出は、戦前のサイレント 映画「裁かる々ジャンヌ」や、戦後のハリウッド作品「ギルダ」などでカメラマンとして名を 馳せたポーランド人監督、ルドルフ・マテ。彼は壮大な西部の絵画を描きたかったのか。 話がどんどん進むと余韻に乏しくなるのに、画面の強い迫力がそれを救っている。 ロビンソンもスタンウィックも決して無駄遣いされていない。随所にいいところを見せる。 一般の評価よりずっといい作品だと思う。[2005年4月22日 16時24分8秒]
未見だった贔屓(ひいき)グレン・フォードの「欲望の谷」(1955年公開)のビデオを見る。 原題はThe Violent Menで横暴な大牧場主と小牧場主連合との争いを表しているが、登場人物が 欲呆けだらけで邦題の「欲望の谷」の方が的を射ている。又、西部劇ではvalley=谷がよく出て きますが谷のイメージがよく分からないので、アメリカに詳しい人に聞くと「盆地」のイメージ だそうな。 元北軍将校で小牧場主の一人がグレン・フォード。大牧場でありながらなお拡大したい欲呆け 牧場主にエドワード・G・ロビンソン。谷全部を支配するようけしかけ、弟のブライアン・キー スと出来ているロビンソンの後妻の欲呆け悪女にバーバラ・スタンウィック。兄の座を狙い、牧 場主達に暴力をふるい、B・スタンウィックと町の女と二股かけている、金も女ものB・キース。 配下のカウボーイが殺されて堪忍袋の緒が切れたG・フォードがE・G・ロビンソンに向って きる啖呵が小気味よい。「俺を刺激しない方がよい。あんたの手先の殺し屋供を捌くのはわけが ない」と、その言葉通り、小人数ながら元軍人らしく戦術をもってコテンパンにやっつけてしま う。 馬のスタンピードを含め全篇殆ど屋外ロケ等シネスコを活かした画面が魅力的で、1954年製作 当時TV西部劇と対抗していた事がよくわかる。 当時の主役は我慢の後銃をとるのが定石ですが製作年から言えば「シェーン」の影響とも考え られる。 これまた贔屓のリチャード・ジェッケルの悪役振りがよい。如何にもガンマンらしい濃紺づく めで、保安官を後ろから撃ったり、何本もの投げ縄で動けないカウボーイを無造作に撃ったり無 茶苦茶です。 アカン点。G・フォードとR・ジェッケルのガンファイトは銃を抜くところがバーカウンター で見えない。ラストのフォード、B・キースの対決は、地面を向いている銃をファンニングして いるキースを普通のスピードで抜いて腕を真っ直ぐに伸ばしてポンと撃つ、迫力も鮮やかさもな いものでした。後年のフォードの名ガン実技はこの頃は未だ習得されていなかったのかも知れな い。 総じては西部劇特集等では先ず言及される事のない水準の作品でしょう。[2004年3月8日 20時5分16秒]