作品名: ビリー・ザ・キッド -


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 ビリー・ザ・キッドは殺人狂という印象だったので、ずっと、あまり興味がありませんでした。しか
し、「左利きの拳銃」、「チザム」、「21才の生涯」、「ヤングガン」などに触れて、彼を描いた初
期の作品も見たくなりました。ロバート・テイラーはちょっと柄じゃないと思うので、1930年の本
作品にしました。後年のB級西部劇の雄ジョニー・マック・ブラウン主演で、MGM製作、キング・ヴィ
ダー監督作品です。映画の冒頭に、当時のニュー・メキシコ州知事のメッセージが字幕で出て、ビリー
のことを拳銃使いながら正義感を持った人物、と讃えていましたが、現職知事がこんなことをいうとは
ね。

 ビリーの雇い主である英国人の牧場主はここではタンストンという名前で、そのパートナーがマクス
イーン弁護士夫妻です。彼らと対立する悪役はドランやマーフィーでなくドノヴァンという男で、これ
がリンカーン郡の役人か何かですが「俺様が法律だ」と称しており、税金として小牧場主の牧場や牛を
取り上げた上、子分に牧場主夫婦を殺させるという悪辣さで、ロイ・ビーンよりもっと悪い奴のようで
す。タンストンもドノバンと対立して彼の子分のバリンジャーたちに殺され、ビリーは復讐を誓います。

 J・M・ブラウンの映画は始めて見ましたが、当時25、6才で、シャイだけれど必要とあれば人を
撃つのをためらわないビリーを演じています。タンストンが英国から婚約者のクレアを呼び寄せた折り
のパーティで、鮮やかにタップダンスを披露したのには驚きました。器用な人ですね。本物のビリーは
スクェアダンスやポルカが好きだったそうだけど、こんな隠し芸はなかったでしょうね。

 保安官のパット・ギャレット(ウォーレス・ビアリー)は「俺はドノヴァンの手先でなく、自分が正
しいと思うことをするのだ」という信念です。ビリー一味はタンストン殺害の下手人二人を酒場で殺し
た後、マクスイーン弁護士の家に立て籠もりますが、出頭しようと家を出たマクスイーンが撃たれ、ド
ノヴァンも誰かに撃ち殺され、ビリー一味はバリンジャーたちに家を焼き討ちされて辛くも逃れます。

 ウォレス将軍が軍隊を率いて到着し、ビリーに恩赦を与えるからバリンジャーと握手せよと求めます
が、ビリーは「できないこともある」と断って去ります。この頃、ビリーとクレアの間に恋が生まれま
す。ビリーは後年の「死の谷」の主人公のように、奥行きの浅い岩穴に一週間籠城するけれど、食物も
水もなくて往生します。ギャレットが岩穴に近づいて火を焚き、ビリーを燻し出しにかかりますが、こ
れが奇策で、鍋を火にかけてベーコンを炙ります。その匂いが岩穴に漂って行き、ビリーはたまらず武
器を放り出してギャレットの所へ行き、ベーコンにありつきます。ビリーは収監されますが、隙を見て
見張りのバリンジャーを射殺して逃げます。ギャレットは、ビリーがメキシコ人の友人宅にいるのを突
き止めますが、結末は意表をつき、ビリーがメキシコに向かって馬で走り去るのを、ギャレットは見逃
します。そしてビリーを追おうとするクレアに「遅れないように俺の馬で行けよ」と声をかけます。

 実はラストシーンには二つの版があるそうで、ヨーロッパ輸出用は実話通りギャレットがビリーを射
殺するのですが、私の手元のはアメリカ国内版らしく、ギャレットが情けを見せるわけです。この幕切
れは後の「駅馬車」に影響を与えただろう、そしてビリーが岩穴に隠れるシーンは「死の谷」に影響を
与えただろう、と私は勝手に思っています。

 この作品、主役のブラウンのピストルはビリー本人が使った実物であり、ウィリアム・S・ハートの
収集品だそうです(上記URL参照)。「ビッグ・トレイル」と同様にワイド・スクリーンで撮られた
のですが、今日では標準版だけが伝わっているようです。ニュー・メキシコの景観は見事ですから、ワ
イド版なら一層映えたでしょう。 ビリーの恩人のタンストール(ここではタンストン)は、実際のリ
ンカーン郡の争いで非業の死を遂げた時、まだ24才だったというから、年令的には精々ビリーの兄貴
分なのに、どの映画でも中年か初老の人物として登場しますね。この作品も例外でありません。タンス
トールとビリーは、やはり父と子の関係でないと絵にならないんでしょうかね。
[2007年12月2日 12時39分49秒]

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