原題 Pittsburgh（1942）、ルイス・ザイラー監督。昔、劇場の予告編だと西部劇じゃねんで見送ったんだ
けど、マレーネ・ディートリッヒとランドルフ・スコットとジョン・ウェインとくりゃ、やはり見なきゃっ
て今になって思ったのさ。予告編から本編まで半世紀以上とは我ながら手間取ったもんだよ。日米戦争最中
の鉄鋼の町ピッツバーグ。製鋼会社構内の演壇で、経営者のキャッシュ・エバンス（スコット）が広場を埋
めた従業員に、戦時の鉄鋼生産の重要性を呼びかけている。壇上に並ぶ幹部の中には、共同経営者のチャー
ルズ・マーカム（ウェイン）もいる。チャールズはあだ名がピッツバーグで、つまり映画の題名は物語の舞
台でもあり、ウェインが演じるタイトル・ロールでもあるのさ。

　話は１９２０年代に遡り、若いキャッシュとピッツバーグは坑内で働く鉱夫友達で、キャッシュは正直で
気のいい男、ピッツバーグは野心的で抜け目のない男だよ。彼らは死んだ鉱夫の娘で美人のジョジー・ハン
キー・ウィンタース（ディートリッヒ）と知り合い、二人とも彼女に惹かれる。町の劇場の実演ショーに、
拳闘のヘビー級チャンピオンと舞台で戦って、３分間持ちこたえたら１００ドル出すってのがあり、客席か
らピッツバーグがやるぞって呼びかげてキャッシュを舞台に上げる。ビング・クロスビーが割の悪い役をボ
ブ・ホープに押しつけるような呼吸で、コメディタッチだね。

　この辺からがドラマで、二人は独立を志して鉱夫をやめ、私文書偽造まがいの手口で銀行から資金を借り
て鉄鋼会社の社長と契約し、鉱山会社の共同経営を始める。いくらアメリカが機会の国でも調子がよすぎるっ
て感じだけどね。成功で頭に血の上ったピッツバーグは、ハンキーを捨てて鉄鋼会社の社長令嬢と結婚する。
強引なワンマン経営で、儲からなければ古くからの友人科学者の研究部門も切り捨てるし、鉱夫たちの反発
も買う。キャッシュもピッツバーグと袂を分かって勝負を挑み、ピッツバーグは「前は３分保ったら１００
ドルだったが、俺となら１，０００ドルだ」って応じる。格闘は坑内で始まって、作業用エレベーターで地
上に移り、キャッシュはピッツバーグを殴り倒す。デュークが殴り合いに負けた恐らく唯一の写真だろうね。

　ピッツバーグの会社は競争者の恨みを買ったりで没落する。妻にも離婚され、友人も失って目の覚めたピッ
ツバーグは、チャールズ・エリスって名前でキャッシュの会社の工員になり、作業改善などで頭角を現す。
経営者のキャッシュは生産性向上のため製造部長を交代させようと、労働組合リーダー（以前、ピッツバー
グと対立したこともある）がエリスを推薦するのでそう決めて、彼を部屋に呼ぶとそれがピッツバーグなん
で驚くけど、今ではキャッシュの妻のハンキーが、過去のことを根に持つ場合じゃないって説き、二人の男
はがっちり手を握る、ってお話で、冒頭の演説場面はその後の様子だろうよ。

　ウェインがこういう嫌みな人物をやるのは珍しいね。だけど結局は立ち直るし、そもそもウェインは悪役
をやったことはないんじゃねえかねえ。スコットだって無法者やギャングの頭目をやる時は、美化されたり、
同情的に描かれたりはするけど、「スポイラース」じゃ終始悪役だったよね。そこへゆくと、ウェインは、
脱獄犯のリンゴゥ・キッドや、「三人の名付親」の銀行強盗なんてれっきとした犯罪者役でも全然悪人らし
くないし、後年の「赤い河」や「捜索者」なんかも一種の悪役だろうけど、頑固で扱いにくくなった老人や、
インディアン憎しで凝り固まった男ということで、比較的単純な人物像だよ。浮き沈みのあるピッツバーグ
役は、ウェインにとって一番屈折した役だったかも知れないね。

　興行成績と批評はよくなかったらしいけど、あっしはスコットとウェインを一緒に見られるんで満足だよ。
したり顔で、「これは西部劇を現代に持ってきた作品である」なんていってりゃ、このページに書き込む口
実にもなるしね。以後、彼らの共演はないけど、二人の道は１４年後に「七人の無頼漢」でもう一度交わる
よ。ところで、スコットは１８９８年生まれで、ウェインの１９０７年生まれより大分年上だけど、昔の映
画雑誌なんかじゃ、スコットは１９０３年生まれって紹介されてたもんで、実はこれ、スターを少しでも若
く見せようってパラマウント社の商業政策だったんだってね。スコットは第一次大戦に従軍したけど、１９
０３年生まれじゃ１４才で入隊したことになっちまうそうだよ。

　最後に雑学クイズを一つ、Ｒ・スコットとＪ・ウエインという西部劇の大立物二人が、珍しくも声を揃え
て「愛しのクレメンタイン」を歌う作品はなーんだ？

[2007年12月29日 19時2分47秒]