「Ａ・マーフィと同身長」さんのおっしゃるその深夜ＴＶ、随分ヒドイ邦題だなーとは思いつつも、
西部劇以外のジャンルは考えにくく念のため録画しておいたお陰で、久々に西部劇を観ると云う幸運
に恵まれました。ご紹介にあるメンバーの他に、マーチン・バルサム、ジョンとデービッドのキャラ
ダイン親子と云わば玄人好みの地味派手な顔振れです。原題「THE GOOD GUYS AND THE BAD GUYS」、
はてこんな映画あったっけなと見始めると、タイトルバックに流れるＥ・バーンステイン張りの勇壮
な音楽に主題歌まで入ってゴキゲンな滑り出し。ただその歌詞が、♪まだ燃え尽きぬご老体の物語、
年を取れば足取りも重くなる、衰え知らぬつもりでも若者はその一挙一動を笑う、フラッグ保安官は
笑い者♪と云った具合なんですよ。要するに「ウィル・ペニー」「モンテ・ウォルシュ」等、あの頃
流行った「ショボクレご老体カウボーイ物」（作品の良し悪しではありませんよ）の１本と云うわけ
で、この歌詞が最後に♪老人の活躍のすべてが町の誇り、若者はからかいをやめ称賛する、皆の誇り
フラッグ保安官に拍手喝采♪、となるお話しです。
フラッグ保安官（ミッチャム）は永い間町の治安を守り続けてきた古強者、初老を迎えてなお家族も
持たない筋金入りの西部男ですが、時代は既に20世紀初頭、町には自動車が溢れる文明開化の世の中
とあっては冒頭の歌の通りのオジャマ虫、市長（バルサム）に名誉保安官の称号と終身年金とを引換
えに無理矢理引退させられた今では、下宿屋の女将に惚れられ彼女の息子にとっては父親同然の幸せ
で平和な日々を送っています。が、ひょんなことから、20年来追い続けている今や伝説の列車強盗マ
ッケイ（ケネディ）とタッグを組んで、町に新しくオープンする銀行の資金が列車で搬送されてくる
のを狙うウェイコ（Ｄ・キャラダイン）一味を相手に奮戦することになります。ケネディもまたヤン
グ世代の強盗仲間から足手まとい扱いにされていた憐れな境遇で、まさに同病相憐れむと云ったとこ
ろでしょうか。
後は、この大捕り物をうまく利用すれば知事はおろか大統領も夢ではないと大張り切りの市長と、そ
れに乗っかるマスコミに町の人達が入り乱れてのドタバタが繰り広げられます。クライマックスは、
脱線して鉄橋から落下し炎上する列車から金を持ち去ろうとする一味とご老体コンビの銃撃戦、「昼
下りの決斗」のマクリーとスコットよろしく、ミッチャムとケネディの二人が背筋を伸ばして堂々と
前進しながら一味を倒して行きます。ラストは、最早これまでと退散しようとしたところを呼び止め
られたキャラダインが、手にしていたウィンチェスターを放り投げ決闘の構えを取るケネディに、
「格好つけたって見掛け倒しだ」とうそぶくと云う何やら「ヴェラクルス」を思わせるシーンです。
と、ここまで見てやっと思い出したんですよ。何と私、この映画見てました、それも映画館で。当時
の一流館に一枚看板でかかる映画とも思えませんので、何かと併映だったに違いないんですが、その
もう１本（恐らくそっちがメイン）に至ってはまるで記憶にないんですから、我ながら見事な忘れっ
ぷりです。
一味は駅での積み替えの時を狙う筈と読んだ二人が、列車を駅に止めないで通過させようと、重くな
った老体に鞭打ってやっとこさ走る列車に飛び乗った途端に、華やかなりし頃のケネディを憶えてい
た老車掌（Ｊ・キャラダイン）に本物の強盗と間違われてホールドアップとなったり、市長が、暴走
する列車をＦ・パーカーの「機関車大追跡」と同じような手漕ぎのトロッコで追いかけたりと、楽し
いシーンもあって結構面白く、何故この映画をかくも完璧に忘却の彼方に追いやっていたのか自分で
も良くわかりませんが、多分当時は余り面白いと思わなかったんでしょう。当然のことながら「夕陽
に立つ保安官」並みを期待したでしょうからね。ケネディのこの手の西部劇もこの後「大悪党ジンギ
スマギー」「地平線から来た男」と回を重ねる毎につまんなくなって行ったように記憶しています。
ところで、ラストの決闘で見せたキャラダインの早射ち、銃に手を掛けてから、撃鉄を起こしながら
抜いてちゃんと銃口が目標に向いてから発砲するまでワンカットと云う見事なもので、しかも結構早
い上に眼をつむっていなかったのには感心しましたよ。
[2008年6月2日 19時29分36秒]