作品名: ヴァージニアン(1929) -


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お名前: ピーター・ポッター   
 五月に図書館で借りた「ヴァージニアン」、拾い読みするつもりが結局通読してしまいました。まあ、一日に一、
二章しか読まないので、1ヶ月以上かかりましたけど。お陰で「おれをそんな風に呼びたきゃあ、にっこり笑え
よ!」というのがなぜ名台詞とされるのかも理解できました。ポーカー・テーブルで初対面のトランパスが、「賭
けろよ、この糞ったれめ!」といったのにヴァージニアンが答える言葉ですね。ここで「てめえなんぞに糞った
れ呼ばわりはさせねえ」とか言い返したら、ヴァージニアンもトランパスも似たり寄ったりですが、そうでない
のがヴァージニアンとトランパスの柄の違いなわけです。

 実際、この場面以前に、ヴァージニアンに再会したスティーブが三度ほど「糞ったれめ」と呼びかけています
が、これには親しみが籠もっていてヴァージニアンも怒りません。誠に、言葉の意味は、言葉自体でなく使い手
と使い方にある、というわけです。

 さて、前回書き込みした、ヴァージニアンとモリーがロメオとジュリエットについて語り合う場面が、小説にも
あるのかって問題については、答えはイエスでもありノーでもあります。つまり、映画のような場面はありませ
んが、ヴァージニアンはモリー宛の手紙にシェークスピアの読後感を記しているのです。インテリ女性のモリー
が、東部から文学本をいろいろ取り寄せて、ヴァージニアンに貸してやり、その結果、ヴァージニアンは他にも
ジョージ・エリオット、ツルゲーネフ、ウォルター・スコット、ジェイン・オースティンなどの作品を読んでい
て、これじゃ、ヴァージニアンは「拳銃とナイフを身につけた西部の野蛮人」どころか、私なんかよりずっと読
書家ですよ。糞ったれめ!

 前回、もう一つ書いたのは、モリーの先祖のことです。小説では、スティーブの縛り首でショックを受けたモ
リーを、テイラー夫人はそっとしておくので二人は言い合いはしないし、その後のモリーとヘンリー判事との話
し合いでも、モリーは「祖父がインディアンと戦って死んだ」などといっていませんね。この言葉は映画のモリー
のはったりのようです。モリーの先祖は独立戦争時の英雄ジョン・スターク将軍だそうで、これは祖父母でなく
曾祖父母の時代ですから、それならまあ年代的に矛盾しないでしょう。

 本書は読みやすく、こなれた訳書ですが、一、二箇所、時代感覚的に不満があります。第13章の終わりの部
分のヴァージニアンの言葉に、「ブリッジは頭を使ってやるんだろうね」とありますが、ここはやはり「ブリッ
ジ」でなく「ホイスト」といわせてほしいですね。「ブリッジ」では、ヴァージニアンが19世紀末の西部男で
なく、20世紀のニューヨーカーに聞こえてしまいます。また、第17章の終わりで語り手が、「ケネディ家を
始めとして沢山のアイルランド人を一人前の政治家にした」といいますが、「ケネディ家」が政治で重きをなす
のは、まだ何十年も先のことなのだから、ここで「ケネディ家」を持ち出すのも時代錯誤です。しかしまあ、私
は西部劇映画は好きですが、西部小説は読んだことがないし、名作とはいえ700ページを越える「ヴァージニ
アン」を生涯に読むことがあろうなどとは思ってなかったから、読めたのはこの翻訳を出してくれたお陰です。

 この大部の物語を、映画はうまく90分ほどにまとめましたね。さすが脚本家はプロです。映画ではヴァージ
ニアンがトランパスに狙撃されて重傷を負い、モリーの献身的看護で回復しますが、原作ではヴァージニアンを
襲ったのはインディアンのようですね。しかし、この改変はヴァージニアンとトランパスの対決を避けられない
ものにするのに有効と思います。ゲーリー・クーパーは小説の主人公とぴったり同じぐらいの年格好だったから、
「ロメオとジュリエット談義」や「赤ん坊かき混ぜ事件」がサマになったんですね。 '46年版では、すでに40
才を越えたジョエル・マクリーにこういう場面は似合わないから、「落日の決闘」でこれらを省いたのは賢明だ
と思います。

 その代わり、「ヴァージニアン」が最初からワイオミングの草原なのに対し、「落日の決闘」は物語をモリー
の身辺から始めます。ニューイングランドの彼女の家や、彼女を熱愛する青年サム・ベネットを登場させ、西部
に向かう列車の車中風景も描きます。小説もモリーの家庭状況を述べているから、それに沿っていますね。「落
日の決闘」の幕切れは、新婚旅行のヴァージニアンとモリーが湖畔でキャンプしている場面ですが、原作もそう
なっています。

 映画では大詰めの対決場面がちょっとあっけなかったですね。日暮れが近づくにつれて仇敵同士が町を歩き回
り、酒場に出入りしたりしながら相手を求めるのはいいとして、最後は二人とも相手を認めて、正面から歩み寄っ
て撃ち合った方が印象的だったろうと思いますよ。「落日の決闘」は、その点で「ヴァージニアン」に差をつけ
る絶好の立場だったのにね。
[2008年12月29日 22時49分10秒]

お名前: ピター・ポッター   
 上州のご隠居さん、こんにちは。

 日本語版「ヴァージニアン」のあることを教えて頂き、有り難うございました。今時、日本語の「ヴ
ァージニアン」を手に入れようとしても容易じゃなかろうと思っていましたが、これは昨夏刊行の新訳
なんですね。そんなものがあったとは知りませんでした。

 折角だから、本土曜日、近所の市立図書館へ行って借りてきました。といっても、何しろ厚い本だか
ら、不精者の私としては通読する気は起きません。しかし、映画の場面が原作ではどうなっているのか、
ちょっと気になる点が二つほどあります。

1.G・クーパーのヴァージニアンとM・ブライアンのモリーが、野原で、ロメオとジュリエットのこ
とを話し合っていたけれど、野人のカウボーイとシェイクスピアでは似つかわしくないですね。モリー
が話して聞かせたのかも知れないけれど。まあ、インテリやくざのドク・ホリデイが「ハムレット」の
台詞を暗唱するのには別に違和感がないから、ヴァージニアンがシェイクスピアを語って何が悪い、っ
ていわれりゃそれまでですが。

2.ヴァージニアンたちがスティーブを縛り首にしたのを嫌悪するモリーに、下宿先の主婦のテイラー
夫人が、「厳しい環境の西部で人々の生活を守るには、リンチもやむを得ない。それを野蛮というのは
東部人の感傷だ」といい、モリーが、「東部でも自分たちの先祖は、昔、インディアンと戦った。祖父
はチェリー谷の虐殺で死んだ」と反論します。これについてIMDbの評者が、「北西インディアン戦
争は映画の時代より100年も前のことだから、祖父の死がその頃だというのはおかしい」といってい
ます。

 これらが原作ではどうなっているのか、拾い読みで確かめられればいいと思います。
[2008年5月10日 23時56分8秒]

お名前: 上州の隠居   
松柏社のアメリカ古典大衆小説コレクション4の「ヴァージニアン」(平石貴樹 訳)全訳 を読んだのですが、リン マクリーンは カウボーイ仲間で 離れたボクスエルダーで働いていて、
モリー歓迎のダンスパーティ(赤ん坊取替え事件もこの時)と結婚式・トランパスとの決闘のシーンで3人で護衛する一人として登場します。既婚で息子の歯が生えたと言ってます。
解説によると、ウエスターは90年代から西部物の短編を書き始め 「ハンクの女」(悲劇の女性の話)等にリンが出ており、ヴァージニアンがでてる短編もあり、これらを長編の「ヴァージニアン」
に取り入れてるそうです。”エミリー””バラムとペドロ”の章は先に短編として書かれたとあります。 赤ん坊事件は 踊りを申し込んで断られたあとヴァージニアンが始めてリンは手伝った
だけで、野営した早朝にリンがヤバイと帰ってしまい、騒動の終盤に皆の気持ちが静まった頃彼が告白しウイスキーのせで収まってしまうのですね。
731頁の長編で 一気に読むには辛い文で 何とか読み終えましたが、当時の様子が良く書かれてます。(ラムアーやシェファーの文とは違います。)トランパスとの対立の最初が”When you・
・”だと判りました。映画ではそんな感じでは無いようでしたが、対立の最初なので この台詞が重要で、有名なのが理解出来ました。
[2008年5月9日 11時2分29秒]

お名前: ピーター・ポッター   
 「赤ん坊入れ替え事件」は原作小説にあるのかないのか? それには原作に当たるのが一番ですが、私はその
ために小説本を手に入れようとするほど熱心ではありません。しかし、便利なご時世になって、こういう古くて
著作権の切れたような小説は、ネットに全文が紹介されています。といって、エゲレス語で書かれた全三十六章
もある大部の作品を通読するなんて、とてもじゃないが私にできるわけありませんから、「赤ん坊」という言葉
の出てくる箇所だけ検索してみました。

 すると、ありましたね。第十、十一章が「赤ん坊事件」です。しかし、この場にいてヴァージニアンをけしか
けるのはスティーブでなく、「リン・マクリーン」というカウ・ボーイです。翌朝、リンは長居は無用とばかり
引き上げ、よその赤ん坊を連れて帰って仰天した親たちが集まって来て、リンが犯人だろうと追跡隊を出したり
大騒ぎします。それに対してヴァージニアンが、「犯人は私だ。殺さば殺せ」と開き直って親たちを煙に巻き、
結局、「ウイスキーのせいだ」ということでうやむやにしてしまいます。

 私はこの辺りを拾い読みしただけなので、「リン・マクリーン」がどういう人物で、ヴァージニアンとどんな
関係なのか、さっぱり分かりません。映画ではクーパー版にもマクリー版にも、「リン・マクリーン」という登
場人物はいないようです。ところが、1914年のセシル・デミル版には登場してるようですね。

 オウエン・ウィスターの作品目録を見ると、1898年に「リン・マクリーン」があります。「ヴァージニア
ン」が1902年ですから、ウィスターは以前の作品の主人公を「ヴァージニアン」に登場させた、ということ
でしょうか? タレントを抱えた事務所の社長みたいなものですね。さらに興味あることに、1918年のジョ
ン・フォード監督の無声映画に「A Woman's Fool」というのがあって、原作はウィスターで、主人公が「リン・
マクリーン」であり、ハリー・ケリーが演じています。おまけに、登場人物に「ザ・ヴァージニアン」がいるの
です。

 「リン・マクリーン」とは何者か? ヴァージニアンとの関係は? デミルやフォードの作品はどんなものだっ
たのだろう? どなたか、この辺りのことを解説して下さいよ。
[2007年11月12日 23時3分55秒]

お名前: 上州の隠居   
「赤ん坊事件」は原作にあったと思います。訳本が出たのは50年近くも前で、本も紛失してしま
ったので、確かではないのですが。トランパスに「土手っ腹に・・」と言わしたヴァジニアンの
台詞「When you call me that, smile」はこの小説の代名詞で、西部小説史上最も有名な台詞です
。ここでは酒場の女を取り合って言いますが、原作はテレビ版の様にポーカーの場面です。「落日
の決闘」ではトランパスがモリーに酒をすすめるのを遮って言ってます。タイトルでお分かりの様
にウィスターとKirke Shalle共作の舞台劇からとなってますが、1904.1.4.にマンハッタ
ン劇場でDustin Farmm主演で幕を開け138回上演された。無声時代に2回映画化されてるが、
2回目の1923年のケネス・ハーラン版に共演者にダスティー・ファーナムの名があり、ウイリ
アム・S・ハートも舞台で演じている様です。
原作は400万を越えるベスト・セラーで、ロマンチックなカウボーイ像を大衆に広め、西部物の
元祖となったのです。この素朴なカウボーイの性格のモデルは、ヴァージニヤ出の三代目大統領の
トマス・ジェファソンだそうです。
[2007年10月29日 15時10分57秒]

お名前: ピーター・ポッター   
 ゲイリー・クーパー主演、ヴィクター・フレミング監督のトーキー初期作品です(本邦公開昭和5年)。
オウエン・ウィスターの古典西部小説の映画化で、戦後のリメークがジョエル・マクリー主演の「落日の
決闘」であり、このページにも書き込みがあるし、DVDにもなっていますから、物語をご存知の方が多い
と思います。

 面白いのは、ダンスパーティーに集まった若い母親たちが連れてきた10人ばかりの赤ん坊を、託児用に
あてた部屋の大きなベッドに一緒に寝かしてあるのを、ヴァージニアンとスティーブ(リチャード・アーレ
ン)がこっそり入り込んで、それぞれの場所を入れ替えてしまい、後刻、部屋に入って来た母親たちがパニッ
クを起こすエピソードです。この場面はコメディ・タッチですが、ヴァージニアンとスティーブは一緒にそん
な悪ふざけをする仲なのに、後日、牛泥棒に加わったスティーブを、ヴァージニアンが牧童頭として縛り首
にしなければならないことの悲劇性を高め、トランパスとの決闘に、ヴァージニアンが自分の銃でなくス
ティーブのピストルを持って赴く心意気に共感を誘います。

  「赤ん坊かき混ぜの場」は、原作小説にあるのかどうか知りませんが、クーパー版にあってマクリー版に
ないのは興味がありますね。察するに、クーパーとアーレンだと「若い者が馬鹿なことをしおって」で済み
ますが、マクリーとソニー・タフツがこれをやったら、「いい年をして気は確かか?」となり、映画がそこ
で終わってしまうからじゃないでしょうか。

 ウォルター・ヒューストンのトランパスも、「土手っ腹に銃をつきつけられりゃ、俺はいつでも愛想がい
いぜ」といってせせら笑うあたり憎々しさ十分で、親父がこんな悪党では、息子のジョン・ヒューストン監
督も定めし食えない人間だったろうと余計なことまで考えてしまいます。

 これを見てもう一つ驚いたのは、ダンスパーティーでの地元ミュージシャンの演奏などを除いて、全編、
音楽が全くなく、人の会話や牛の鳴き声、汽車の汽笛、銃声といった現実音だけのことです。これなら製作
費に作曲料が要りませんね。「モロッコ」よりも、「戦場よさらば」よりも若いクーパーのヴァージニアン
は、この映画で、東部から来た学校教師のモリー(メリー・ブライアン)との結婚式の日に、トランパスに
果たし合いを挑まれますが、20余年後に、クーパーはまた結婚式当日に決闘する羽目になりますね。
[2007年10月14日 20時12分11秒]

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