かいせつ (映画プログラムより)
山に挑むアルピニストの闘いこそ、自然と人間との最も熾烈で感動をよぶドラマだといえよう。そこには、絶えざる困難、苛酷な条件のなかで征服するものとされるものとの力のかぎりをつくした死闘がくりひろげられていく。それは、生と死が隣り合わせになった一種の極限状況でもあるのだ。
1961年7月12日、アルプスの最高峰モンブラン(標高4810メートル)の頂上にそびえる約800メートルの巨大な岩壁で、登山技術の最困難を要する”第6級コース”に君臨するフレネイ岩稜に挑んだ仏・伊のパーティが遭難7名のうち、実に4名の犠牲者を出すという、世界山岳史上最大の悲劇となった。世界中のアルピニストに激しいショックを与えたこの事件は、生き残りの一人、フランスの一流アルピニストで現在スポーツ文化相のピエール・マゾーの証言をもとに、事件から実に11年ぶりに再現された、山岳映画にはめずらしい長編ノンフィクション・ドキュメントである。
監督のロタール・プランドラーは、これまでに「アルプスは招く」など、優れた山岳映画で知られた第一人者。彼自身、世界的なアルピニストとしても有名で、その豊富な体験と知識を生かして傑作を発表、独・仏・伊各国て受賞に輝いている。
撮影もプランドラー自身が担当、テクニックを縦横に駆使して、信じられないようなカメラ・アングルでモンブランの壮麗な美と、一変した自然の恐ろしきをとらえた。なお、この映画の撮影中、ス夕ッフのうち3名の犠牲者を出すという惨事に見舞われたが、ブランドラーは、この不幸をのりこえて、みごと完成させたのであった。
スタッフに協力出演したのは、前記のピエール・マゾー本人をはじめ、独・仏・オーストリア・チェコなど各国のベテラン・アルピニストたち12名。いずれも名だたる山男ばかりである。
音楽はアンドレ・ポップとアンリ・ブーケ。ごの悲劇を抒情的な旋律で美しく彩っている。 |