GLN 宗教を読む

聖書の起源

◆伝承と創作との間 − 口承文学の方法
 福音書に限らず、一般に口承文学に関して、ある物語が、 口から口へ伝承されていく過程において、もっとも変化をうけやすい部分は、 物語の様式や全体の構造ではなく、むしろ細部の附随的部分である。 それは、人間の好奇心と結合したイマジネーション(想像・空想)の結果であるが、 好奇心というものは、つねに物語の核心よりも、 その細部の明細化にむかって働く傾向をもつからである。
 この法則は、福音書の場合にも、ほとんどそのままあてはまる。 たとえばひとつの伝承は、後期のものになればなる程、 古い伝承では曖昧な部分 − 人名とか地名が明細化されている。 イエスと共に、十字架につけられた強盗は、誰であったか。 イエスの墓を見張っていた看守長 は誰だったか。こうした疑問は、最初の伝承では、ほとんど関心のなかに入ってこない。 伝承が後期のものになればなる程、むしろ、こうした細部の明細化への傾向が顕著になる。
 
 われわれは、手のこんだ明細化の手法に注目したい。 伝承過程に、教団神学の意図が、大幅に入りこんでくるのは、この段階からなのだ。 そのもっとも顕著な例として、ここでは山上の垂訓をとりだしてみよう。

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