<あの人この店> 「渡部家」国登録有形文化財 夫婦で未来へ残す種を蒔く 前嶋万人(まえしまかずひと)さん 和歌子(わかこ)さん 秋田県鹿角市八幡平石鳥谷 TELL 0186-32-2133 開館日:5月〜11月(予約は一週間前までにお願いします) 開館:10時〜16時 〔編集部〕八幡平の石鳥谷にある渡部家は鹿角市で初めて平成18年3月に文化庁の 登録有形文化財(建物)に登録されました。 館長として建物を維持している前嶋さんにお話を伺います。よろしくお願いします。 〔前嶋さん〕渡部家は妻の実家で、妻は小さい頃ここで育ちました。私自身の鹿角 との縁は花輪の川村旅館で、私の母は川村から出たんです。現在の当主と私は、い とこ関係にあたります。 〔編集部〕夫妻のご自宅は埼玉で、冬の間は埼玉で過ごされているんですね。 〔前嶋さん〕そうです。私が東京電機大学高等学校の教員を退職してから本格的に 渡部家の修復・維持管理を始めました。4月から11月は鹿角です。春に庭の手入れ を始めますが、すべて妻と二人の作業です。 渡部家は市の文化財には指定されていませんので、文化庁の登録申請に当たって は、卒業論文に渡部家を取り上げてくれた東北工業大学の学生さん方が調査作成 した図面を頂いて申請しました。登録されたのは「薬医門・母屋・蔵」の3ヶ所です。 〔編集部〕展示が大変工夫されていますね。見学者への思いが伝わってきます。 〔前嶋さん〕古文書など、中学生ぐらいである程度わかるように努力しています。 先日、県の公文書館の人が来て「こういう展示の仕方があるんですね、今度私たち も県内で取り入れてやってみます」と言ってくれまして、嬉しかったですね。私は専 門が電子工学なので、発想の仕方がその道の専門家と少し違うのかもしれませんね。 私たちが手探りでやっていて、ここで種を蒔いたものが日本中に広まってくれれば それだけで夢が叶ったようなものです。 〔編集部〕種を蒔くという気持ちですね。 〔前嶋さん〕ええ。多くの子どもに見てもらい、その中から1人でも2人でも面白い と感じてくれる子が育ってくれることを望んでいます。自分たちの故郷にこんな場 所があるんだということ、そして古文書や建築というものの面白さを感じてもらい たいのです。ただ、それは自分が生きているうちに芽が出るとは思ってはいません。 育つには時間がかかりますからね。将来の鹿角に残るもの、将来の鹿角を育て るものにつながってほしいと願っています。 〔編集部〕将来の鹿角への希望の種ですか。 〔前嶋さん〕古文書については、幸いにして大湯の高木英子さんと合ノ野の田中賢治 さんという素晴らしい人との出会いに恵まれ、好意で解読をお手伝い頂いています。 〔編集部〕渡部家は花輪代官所の役人を務めた在郷武士の家系ですね。素晴らしい 建造物ですが、現在は無料公開ですか。 〔前嶋さん〕子どもたちの勉強に毎回お金は取れないと思ってしまう。どこからも補 助が出ないので、資料も展示もすべて手作りです。維持管理費も含め、公開するとい うことはなかなか大変です。周囲の人が県道からの入り口に看板を出したらどう かとアドバイスくださいますが、二人だけですから飛び込み見学者まで対応できま せんので、予約制にしています。私はお金儲けや経営者には向いていませんね。 〔編集部〕ご苦労も多いですが楽しみは? 〔前嶋さん〕ここにいると、壁や建物やお茶といった様々な分野の先生方が渡部家を訪 ねてきてくださって楽しい。それに、夏になると教え子が妻子を連れてきます。嬉し いです。最初の夜間部での教え子は私より年上が多かったのでもう70歳過ぎた年齢 になります。私は第二の人生だとは思っていません。ずっと第一の人生の延長です。 |
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