鹿友会誌(抄) 「第一冊」 |
△所感を陳して本誌発行の祝詞に換ふ 賛成員 折戸龜太郎 都下十万の書生の風儀は、殆んと将さに敗壊し去らんとすとは、先輩の士の断言する所にして、 新聞に雑誌に特記する所なり、顧ふに我か鹿角郡より、笈を負ふて都下に来り居るもの無慮五十人に 及ふ、能く此の腐敗せる空気の侵害を免るゝことを得るか否と云ふに至りては、余の窃かに危ふまさるを得さる 所あるなり、余は愚昧なりと雖も、齢を以てすれは、多少の世故を経過し来りたるもの、 若し此の多数と朝夕相面接する事を得は、相匡救すること能はさるも、亦聊か諷規する所あらん、然らは即ち、 未た必すしも大に益する所なきも、亦少しく補ふ所なくんは、あるへからすと雖も、如何せん各所に散在するを以て、 遺憾なから力茲に及はす、幸に鹿友会なる一の集合体ありて、此の多数を有せり、 此の多数の会員各其朝夕相接する所に就て、相切磋奨励するの実を挙けなは、我か鹿角郡出身の書生は、 巍然として腐敗空気の中に卓立することを得ん、於是乎鹿角会の必用大に現はるゝに至らん、 其然り会員互に相匡救し、相規諌するを怠らすと雖も、既に腐敗したる空気を呼吸し、其毒気を膚受せる上は、 多数中未た一二の感染するものあるを免れ難からん、不幸にして斯かるものありと仮定せんか、 且甚しきもの、即ち我同郡人たるの面体を活かすに至るものあらは、 已を得す断然之を社会外に放逐するの断行主義を執らさることを得さるへし、 此時に当りて之を交付するは、本誌に依らさることを得す、是れ余か本誌発行の挙あるを聞き、 大声之を賀する所以なり、抑も会合の必要なる互に相益する所あるを以てなり、 若し本会にして、此の実なからしめんか、寧ろ之れなきに如かさるなり、今本会は本誌を以て、斬馬剣となし、 南山の竹となし、本誌は復た之を以て、其真面目を現はすに至らは、其益実に莫大なりとす、 故に余は、今通常の祝詞を以てせすして、聊か其平日感する所を述へて、之に代ふ、 幸に其不遜を尤むるなからん事を |