鹿友会誌(抄)
「第三十六冊」
 
△俳句
○旅の句帖より   渡邊冬園
  博多近くにて
 暖国の倉の前なる花椿
 十年の昔を偲ぶ門司の春
 
  奥湯河原温泉にて
 若葉風滝のしぶきを送りけり
 どてら着て若葉の山を歩きけり
 
  相模川を下りて
 若鮎の骨やはらかに焼けにけり
 魚籠に鮎を吐く鵜のあはれなり
 深峡や鮎釣る人の眠り居る
 
 仙台への汽車の窓より
 アカシヤの花咲く村の田植かな
 麦畑の中に一本高し桐の花
 
  日光和楽踊にて
 踊の輪はなれて疲れ覚えけり
 
  高尾山にて
 ケーブルカーにすれずれ咲くやコスモス花
 
  伊勢神宮参拝
 玉砂利の音粛々と秋参り
 
○炭焼きと落葉   十四樓
 渓深み炭焼くかまのそここゝに
 満山を鳴らす時雨や炭を焼く
 炭焼くや月照る夜も闇の夜も
 解き得ざる老師の言や落葉踏む
 掃き寄せてなほ降る落葉眺めけり
 落葉踏む淋しき音や心澄む
 秩父嶺へこの径つゞく落葉かな

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