鹿友会誌(抄)
「第三十冊」
 
△想起す故人十三氏
關達三氏
 紛 乱脈、縺れたる糸の如き事務、数字………も、氏の眼の前には、忽ちに其の緒を発見 せられ、整然と整理せられ、一糸乱れず、而して其れに順応する、措置は適宜に講ぜられ、 私曲不正の潜在も、忽ちに明々白々と暴露されるといふ、不思議の霊能の所有者としての 天才をば、後藤子爵東京市長たる時に認められて、是れより此の大人物の知遇の下に、前途 祝福すべき星下にありし氏の不幸早世せるは、鹿友会の大損失である。
 僕は氏の晩年に於いて、氏と語るの機会多かりしを以て、能く其の腹中を聞いたが、鹿友会 と先輩との従来の推挽提撕につき、多大の意見あり、氏の市に於ける位置の進み次第、 大に若き鹿友会員の為めに尽す覚悟なりと、数々語られたものである。氏は、直情径行の人 なるも、又非常に人情に厚い人であった。自ら独り栄達しても、百年の後に恩に感ずる後進の 涙が、其の墓石に注がれぬ様な死にざまは、氏は断じてなさず、と心掛けて居たらしい。

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