鹿友会誌(抄) 「第二十四冊」 |
△亡友追悼録「和井内貞行翁」 ○和井内翁の面影 小蓉子 和井内翁、逝いて一年。思起す昨の今日、翁が住む青葉の柏崎より啼き去った杜 鵑は、春未だ浅い十和田湖畔に訃を伝へた。この朝、郷にはかなり強い地震があった。 僕は、恐く終生この朝を忘る事が出来ない、とつくづく感じた。翁の奮闘的渉外の記事 は、数十の弔詞に悉く尽されてゐるが、郷人としては、厳格なる偉人としての翁より、 更に深刻なる面影を遺してゐるものがある。 ○翁が常にモンパのボッチを冠った姿 ○翁がフロックに白足袋に足駄がけの装 ○翁が樸直の訥弁を奮ふて、気焔を挙げた風貌 ○翁が興に乗じて、一流の活惚を踊った様子 僕は翁より聞かされた少壮時代の逸事などは、常に脳裏を去らないものがある。大演 習の宴会に召されて、弘前に赴かるゝ途次、大湯街道でシルクハットを風呂敷包みにし て背負はれての立話にも、必ず一の教訓が含まれてゐるものがあった。翁より受けた面 白い教訓は、いつか纏めて見たいものと心掛けてゐるが、果し得ないのが残念でなら ぬ。今回鹿友会より、翁の履歴をくれとの命に接したが幸、在錦木の高橋強君がその事 に当られてゐるとの事故、お願して別報することにした。
(大正一二、五、一六)
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