鹿友会誌(抄)
「第二十一冊」
 
△亡友追悼録「人の死」
三、青山七三郎翁
 王者に大業を為さしむるは社稷の臣なり、実業の世の中に於いて、其実業主の大業を 為さしむるは、実業世界棟梁の器なり。翁が古河銅山王を幾多悲境の最後の断末魔迄で 、堅く成功を信じて動かざる山の如く、最後的試運の一爆発に足尾銅山、今日の無尽蔵 的金光燦爛の鉱脈を掘り当てたるが如き、其王佐の材大に見るべきものがあった、国富 国産上の翁の隠れたる偉勲は、彼の官僚以上である。翁の山相学上の眼光の千里眼的 に透明で、一度翁の目に睨まれたる山は、遂に其宝庫を秘することは出来ぬ。造化の秘 庫は遠慮なく翁の眼力で開かれ、国産となり国富となった。仮令ば大医の病に於けるが 如く、一度翁の目に見られたる鉱山の死活は、忽ちに診断せられて誤診ないものであっ た、
 翁の風采は、頗る立派な人で、其昔は鉱山の美婦を悩殺したかも知れぬ。翁は今日の 成金輩と異なり、謙徳高く、不識不識人をして頭を垂れしむるものがあった。

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