鹿友会誌(抄) 「第十二冊」 |
△故郷(和歌) ごらう 故郷(ふるさと)の半鐘台の其下(そのもと)に 凭りて在る児の吾に似たるかな いと紅し町端(はづれ)なる病院の 白亜に今ぞ夕陽さし添ふ あこがれてあこがれて来し故郷の 小学校の屋根の見えたり 夏の夜は太鼓の音に更け行きぬ 久保田辺りに人ぞつどへる 出立の前夜の情緒(こゝろ)思ひ出でゝ 又新らしく泪さしぐむ 吾幼く乳母が背の上におのゝぎし 閻魔の顔のそのおかしさよ 飴売りのラッパの音にたゞよへる 夕陽の街に吾も遊べり 秋となれば殊更人のなつかしき 山めぐらしゝ故郷の人 いと淡く花咲く山裾を辿り 辿りて故郷に入る 故郷の野原に生ひし紅き花の 末枯れ行くをふと思ひ見ぬ |