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東京控訴院審庭に於て、小杉直吉は、身帯と云うも身代と云うも、同一の称にして、
法律に異例無きもの也との圧制したり。
第二家財とは、家の宝と書し、財産の総名なり。地所も金品も其中に含有し、
法律上区別を要するの限に非ずと圧制為したり。
依之裁判官に対し、其当時の法律制限を証明する為め、
南部家、法律謄本を提出し置きたる明文に対照するにあらず。
不法にも彼れ、故意を張り一も容れず。
因て該法律文を汝に示さんと、則法律中其一ケ条を茲に掲ぐ。
南部大膳大夫利敬軍役高拾万石の所に、尚ほ拾万石加増高合せ席高弐拾万石に
被仰付、家制改正ともに法律を改正し、政府指令に基き、掟に定め候。
文化律百ケ条規定十七条目に、 ○身代限申付之事 ○其一、田畑屋敷家蔵家財取上 ○其二、店借候はゞ、家財取上げ ○但し、地借にて家作自分に致候はゞ、家財家作共に取上可申事 とあり、南部家の法律野蛮に非ず。此法律明文を解釈し得る能はざる小杉直吉は、 裁判官たる能力無き者と認むる也。 汝は右雇勘定方長谷川寛平の身上分限を回想せよ。 汝等、施したる恩給は如何ん。此勘定方なる者は、扶持方二人口にて、一年中所得玄米六俵也。 其外一切金品授与する無く、玄米六俵の身帯を以て妻子を養育し、役所に日勤する至貧の役人也。 然りと雖も、郷村検地之為め派遣、又は領内各郡へ派遣に際し、 旅費日当給与せず。一切の経費自弁に任じ、此故に検地願人に於て、 勘定方往返滞在の費を負担する従来の例なり。 且又其野竿新田開発年限、家老連名証文に指定開発年限中、貢税を許可し、 之を鍬下年限と云ふ也。其原因は、山野空地を田畑に開拓を認可したるは、 領高を増殖して、国益を計る為め也。 此故に願人え対し家老一同連判、野竿新田開立証文を交附し、精御検地と唱へ、 地所の等級定る云々御竿可願出候。 御検地被遺御改之上、小高帳可被下候也とあり、因て願人は、年限内に出精開揃成規の如く 精検地願立に対し勘定奉行より勘定方を派遣し、地質見分測量反畝歩、及本高を定め、 願高増減に由り、過高生ずる分は、願主より過高御礼金徴収するを規定とす。 此規定に対し違犯誤失無之正実に執行相済出発の際、餞別として差出したるは、 無給料自弁旅費の補助の為め也。 例に由り、勘定方及派出員一同、目録品物受納するは公然旧例にて、 規定違犯の者に非ず。汝、之を咎むるは不法也。 役人に俸給旅費日当も与へず使役するに、主人権あるとするや。 古今山野開拓の本旨とするは、田地畑地を問はず、熟不熟を論せず、 鍬下免税期限以後、税法を以て貢納附加するは、一般人民の免れ難き百姓の義務、 法例古今同然也。 依之、長谷川寛平は、熟地に至らざる新田地に精検地を容れ、貢税を確定して、 納税を命令し、増殖したるは、職務上忠良也。 然るに汝は、管理主権、勘定奉行へ一応の質問も無く、密かに楢山佐渡に謀り、 突然長谷川寛平等を刑したるは、勘定奉行、及管理役一同、其不法を憤り、 不服を挙て動揺したるを、楢山佐渡は、上を批難するする者は刑に処するとの圧制に、止めたる 実あり。汝、不法言語同断也。 |