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政子姫の織った羽毛の織物考

△鶴の恩返し
 
 昔むかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
 ある寒い雪の日、お爺さんは町へたきぎを売りに出かけ、その帰り、わなにかかって いる一羽の鶴を見みつけました。お爺さんは大変可哀想に思い、
「じっと静かにしていなさい。今助けてやる」
 と、鶴を助けました。鶴は喜んで山の方に飛んでいきました。
 
 家に帰ると、お爺さんはお婆さんに鶴を助けたことを話しました。
 やがて外が暗くなった頃、戸口をたたく音がしました。
「誰でしょうね」
とお婆さんは戸口を開けました。
 すると、なんと美しい娘がそこに立っていました。
「夜分すみません。雪が激しくて道に迷ってしまいました。どうか一晩ここに泊めてい ただけないでしょうか」
「ごらんの通り貧しくて十分な夜具はありませんが、よかったらどうぞお泊まり下さい」
 娘は嬉しそうにその家に泊まることにしました。
 次の日も、また次の日も雪は降り続き、数日が過ぎました。
 娘は心優しく、老夫婦のために何でも家事手伝いをしました。夜になると二人の肩を もむなど、懸命に働きました。
 子供のいない二人は、この娘のことをわが子のように思いました。
  
 ある日、娘は言いました。
「私は綺麗な布を織りたいと思いますので、糸を買ってきて下さい」
 お爺さんは早速町へ行って、糸を買って来ました。機織りを始めるとき、娘は言いま した。
「これから、機を織ります。機を織っている間は、決して部屋の中をのぞかないで下さ い」
 機織りの部屋に入ると、娘は一日中機を織り続けました。夜になっても出て来ません。 次の日も次の日も機を織り続けました。部屋からは機の音が絶えず聞こえていました。
 三日目の夜、音が止むと一巻きの布を持って娘は出てきました。それは実に美しく、 今ままで見たことのない織物でした。
「これは鶴の織物と言うものです。どうか明日町へ行って売って下さい。そしてもっと 沢山糸を買ってきて下さい」
 次の日、お爺さんは町へ出かけました。
「鶴の織物を買って下さい。鶴の織物はいらんかね」
とお爺さんは町を歩き廻りました。
鶴の織物は、とても高いお金で売れたので、お爺さんは沢山の糸やその他いろいろなの 物を買いました。そして喜んで家に帰りました。
 
 次の日、娘はまた織物を織り始めました。三日が過ぎたとき、お婆さんはお爺さんに 言いました。
「素晴らしい織物は、どうやって織るのだろう。ちょっとのぞいてみよう」
「ちょっとだけ。ほんのちょっとだけですよ」
 お婆さんは、とうとうのぞいてしまいました。
 すると、娘がいるはずの部屋では、一羽の鶴が長いくちばしで、自分の羽根を抜いて 糸に織り込んでいました。
 その夜、娘は織物を持って部屋から出てきました。
「お父さん、お母さん、ご恩は決して忘れません。私はわなにかかっているところを助 けられた鶴です。恩返しに来たのですが、姿を見られたからには、もうここにはいられ ません。長い間ありがとうございました」
と、手を広げると娘は鶴になって空に舞い上がり、家の上を回って、山の方に飛んで行 ってしまいました。

 「鶴の恩返し」は、新潟や山形などの北国が発祥と考えられているが、全国各地に似 たような話が点在していると云う。
 
 この昔話から推測されるように、出羽国では羽毛の織物が織られており、とても珍し くて高価な物ではあるが、国内に広く普及していたことが分かる。
 しかして、この昔話が語られ始めたのは、いつの頃であったろうか……

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