「桑の實」
 
〔酒盃の歌〕
如何ばかりうれしきものか四斗の酒
  一月毎にひとの賜(た)ぶれば

十年のひと日も缺けず飲むを得ば
  十年にして酒断つものを

萬斛の涙を内にたたへつつ
  我が酒のむを人止むべしや

御神酒と畏こみ飲めば天地の
  神踊るみゆ酔ひのまなこに

そのむかし少彦名の大神の
  飲(を)せしみ酒ぞもそのみ酒ぞこれ

そらにみつ大和の酒にほろほろと
  酔へば湧きくよ吾がかなしみは

人やいかにみるらむ知らず現身の
  かなしきあまり吾が酒のむを

武蔵野の虫の音哀し秋の夜は
  酒だにいとど腸にしむ

かくばかり悲しきものぞ現身は
  酒のまずして堪ゆらふべしや

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