「桑の實」
 
何処より流れ来にける白雲ぞ
  ひむかしの山に今日もみつるかも

そよろ風白雲二つ蒼空(そら)に浮き
  あやめの花は咲きにけるかも

小山田の苗代に入りて乙女等が
  泥かきよせて早苗とるらし

ほととぎす血に啼く声はありあけの
  月より外に聞くものぞなき

かくのごと汗にじむとは知らざりき
  掩体壕を吾が掘りにつつ

むらぎものこころうれしも味噌汁に
  今年新出のジャガ入りたる

益良夫とおもへるわれや白菊の
  寂しきを愛づ涙たらしつ

吾子には散れと教へて己れ先づ
  嵐に向ふ櫻井の里

身に近く友の誰れ彼想ひつつ
  寂しからぬなしひとの生きざま

ふたちまりむつももよとせあらたまの
  年たちかへる神ながらも

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