71 石の堂の狐(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 毛馬内の町に平兵エヘイベエと云う男が居て、ある日、荒川アラカワの村へ用があって、朝早
く出掛けました。
 石の堂と云う小山の麓フモトまで来ると、一匹の狐が朝日に暖アタって居眠りしていまし
た。
 平兵エは、一つ脅オドかしてやろうと、手頃テゴロの石を投げたら、狐は肝キモを潰ツブし
て五、六尺も飛び上がって逃げて行きました。
「ああ、いい気味だ」
と平兵エはそれから道を歩きながら、「もしお金を拾ヒロったら、何の商売をし、もしこ
れ位拾ったら商売の元手モトデにしよう」と考えました。
 さて、荒川の村での用事が済んで、日も暮れかかった道を帰って来ると、財布サイフが落
ちていました。拾って開けて見ると、中にたんまりとお金が入っていたので、大喜びで
した。
 
 「今朝、思ったことが天に通じたんだ」と一人言を言って、懐フトコロに入れて帰りまし
た。石の堂の下まで来ると、山の上から、
「平兵エや、平兵エ、それは銭ゼンコでないぞ」
と言う声がしました。平兵エはぞっとして、懐から財布を取り出して見ると、何と財布
だと思ったのは木の葉で、お金と思ったのは、未だ暖かい糞クソでした。
 平兵エは、狐を驚かしたので、仇カタキを取られて、すっかり懐の中を汚してしまいまし
た。
 どっとはらえ。

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