63 あっぱ(母)の首
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、あったのです。
ある処に、父エデと母アッパと居ました。
母は腹が大きくなって、
「ならなし食いたい、ならなし食いたい」
と父に、ごんぼ(牛蒡?)を掘りました(駄々ダダを捏コねた)。
父は、ならなしが成った処が何処ドコなのか知らないけれども、ならなしを採りに行く
ことになりました。
父は、何日分かの焼き飯メシを背負って、長刀ナガサと弓を持って出掛けました。そうし
たら、寺があって、和尚様が出て来て、
「父や、父、何処へ行くのか」
と聞いたら、
「ならなしを採りに行くのだ」
と言いました。
「そうなら、道を教えて呉クれる」
と、父に、
「此処をずっと行けば滝がある。滝は三つあるけれども、『行けやタンタン、行けやタ
ンタン』と言ったら、何処までも行けばいいし、『行くなタンタン、行くなタンタン』
と言ったら行くなよ」
と教えて呉クれました。
一番目の滝は、
「行けやタンタン、行けやタンタン」
と言うのですので、父はずっとずっと行きました。
良い塩梅アンバイに二番目の滝も、三番目の滝も、
「行けやタンタン、行けやタンタン」
と言うのですので、山奥へずっとずっと行きました、
そうしたら、大きな梨ナシの木があって、実がいっぱい着いていました。「この梨だな
」と思って、木へ登って梨もぎをしました。
そうしたらね、何だもんだか大きな化け物が、山へ響くような声で、ウーウーウーと
来ました。
それで、梨をもいでポタッと落とせば、デロッと食うし、長々と居て、下へ下ろせば
デロッと食ってしまうものなので、父は今度は弓を撃ったら、化け物の眼マナグに中アタり
ました。
そして、その化け物は、ウンウン唸ウナって、何処ドコかへか逃げて行ってしまいまし
た。
梨を採って下りて来たけれども、このまま行けば駄目ダメだろうと、血の痕アトを追って
行ったら、大きな木の洞穴ホラアナに寝て居ました。
父は、また長刀でそれを殺して、今度は家へ戻って、
「妻よ、今来た、今来た」
と言っても返事はしませんでした。
「妻は、俺があまり遅くなったと言って、ごしゃやけている(怒っている)と思って、
「ごしゃやけば、俺は出て行く」
と言ったら、
「父よ、俺も行く、父よ、俺も行く」
と、泣き声がするので、よく見たら、妻は誰に殺されたものか、首っ玉だけになって、
長持ナガモチに入っていました。
仕方が無く、父は、首玉を背負って、其処ソコから出掛けたのでした。暗くなって、宿
を探したところで、
「俺は一人だ、何とか泊めて呉れろ」
と頼んだら、背中の妻の首が、
「背中に一人居たぁ、二人だよ」
と言うものだから断られました。また、次の宿へ行っても、
「俺は一人だ、泊めて呉れろ」
と言ったら、また、首っ玉は、
「背中に一人居たぁ、二人だよ」
と言うものだから、宿を断られるのでした。
とうとう、父はごしゃやけて(怒って)川の中へザブンと投げてしまいました。
どっとはらえ。
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