45 蛇の祟タタり(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのでした。
 ある処に沢右エ門と云う人がありました。ちっこい童子ワラシを連れて、竹薮タケヤブへ竹
を切りに行きました。
 そしたら、昼間になったために、
「お前があそこへ行って、水を汲んで来い」
と言いました。そしたら、その童子ワラシこは、桶こを持って水汲みに行きました。其処ソコ
の水この処に、大きな木を並べて置いてありました。其処へ、また大きい蛇が伝ってい
ました。
 そしたら、その童子の水汲む処へ、ズッと頭を下げて、赤い口を開けて、その童子を
呑む気になりました。その蛇の口がその水に映っていました。それを知らないで、その
童子こは、
「何と綺麗キレイな物が映っている」
と見ていました。その時、その童子こは、蛇によって芯(魂)を抜かれていたのです。
 
 そしたところで、沢右エ門が、
「随分水を汲んで来るに遅いこと」
と思って、迎えに行って見たら、もうその子供こは、とっくに弱っていました。
「ようし、この野郎。こらっ、お前がこの子供を食う気になって殺したな。よしよし、
待て」
と、まず、その子供のことを、手前の小屋っこに入れて来て、また、蛇の処へ行きまし
た。
「よし、お前と勝負しよう。場所の良い処へ出張デハれ」
 蛇も言うことを聞いて、行きました。そしたら、その蛇は行きながら段々大きくなる
のでした。そしたところで、今度は沢右エ門がうる木のまっか(股)を切って、蛇と云
う奴は、頭よりも尾っぱがおっかないために、尾っぱをパーンと一つ叩ハタけば、その木
は蛇を越えて、向こうへ跳ねて行ったのでした。そしたら、蛇はその跳ねて行った方へ、
尾っぱでパターンと返して寄越すのでした。そしたら、また、こっちでパターンと叩け
ば、こっちへパターンと跳ねて来るのでした。
 それを何回もやっていたら、ついつい蛇は死にました。そして、それに止トドめを刺す
のに、一間置きに一本ずつ刺したら、十二本も刺さりました。その蛇は十二間の長い蛇
でした。しかし、その子供こは、それが元で、遂に死にました。
 
 次の年、また、其処ソコの山へ竹を切りに行って、その蛇を殺した処へ行って見たら、
大きな骨がカラカラとありました。それを黙ダマってただ見て来れば良かったけれども、
「この野郎のために、己オノレの子供をただ殺されてきしまったのか。この畜生チクショウ、こ
れは」
とブーンと踏んだら、その時、足がグラッとなったと思ったら、痛くして、それからそ
の足が段々痛くなって、その沢右エ門もそれが元で、死んでしまいました。
 どっとはらえ。
 
参照[鹿角物語「2020かえらじの沢」]

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