1903 ヨゴミと菖蒲の話
参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
昔、昔ある所に爺様ジサマがありました。
爺様が若いとき、まんまかねぁあっぱ(ご飯を食わない妻)を欲しくて、
「皿ッコで一つより、まんまかねぇ」
と云うアッパを貰いました。
エデ(夫)が山へ行ってしまうと、アッパは、大きな釜に水を汲んで、米一俵をあけ
て、飯を炊きました。その出来た飯をにぎりまんまにして、戸板に一杯上げて(並べ
て)、髪はドサッと前にたらして、頭の真ん中にある大きい口をあけて、
「タロボモケェ、ジロボモケェ」
と言って、両手で投げ込んで食いました。それが終わると、水を汲んで釜を洗って、知
らん振りをして、親父の来るのを待っていました。
あるとき、親父が梁ハリ(屋根裏)に上がって、見てびっくりしました。米俵が少なく
なっていました。親父は、山へ行った振りをして、梁に上がって見ていたら、アッパは、
鬼になって大きな口をあけて、まんまを食っていました。親父はたまげてしまって、ア
ッパが水汲みに行っている間に、梁から下りてきて、山へ行って来た振りをして家に入
りました。
「アッパよ、暫く家(実家)へ帰らないでいたので、家へ遊びに行って来い。土産は何
にしたら良いかな」
と言いました。アッパは、
「エヅコ(飯詰)を作ってくれろ」
と言いました。親父は、エヅコを作ってアッパにやりました。アッパは、親父をエヅコ
に入れて、エヅコごと担いで、山へ向かって行きました。
おやじは、どこで下りて逃げたらよいかと思っていました。そうしたら、ヨゴミ(蓬
ヨモギ)と菖蒲が一杯生えている所がありました。親父は、エヅコから思い切って飛び降
り、ヨゴミと菖蒲の中に隠れました。
アッパは、鬼の姿に戻って、親父を捜したけれども、ヨゴミと菖蒲の汁ッコが付けば
臭くなるからと言って、とうとうあきらめて山へ逃げて行きました。
「アッパは、恐ろしい鬼であったのだ……」
と、親父はたまげてしまい、ヨゴミと菖蒲を採って、家へ帰って行きました。どっとは
らぇ。(大湯)
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