5504ドンブクと単衣ヒトエ
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 左多六さまは何時イツも、夏は綿のいっぱい入ったドンブクと云うものを来て、冬は薄
い麻の単衣の着物をきていました。また、手には必ず扇を一本持って、下草木から毛馬
内の代官所まで、往来ユキキしたものです。そして代官さまに、
「夏なのに、暑くないかい」
と聞かれれば、綿のいっぱい入ったドンブクの袂タモトを合わせて、
「寒い、寒い」
と言って、震えて見せるのでした。また冬になって、
「寒くないかい」
と聞かれれば、麻の単衣の着物の襟エリを広げて、扇であおぎ、
「ああ温ヌクい、ああ温い」
と言って平気な顔をして、扇であおいでいるのでした。そして、ゆっくり歩いているか
と思えば、急に姿が見えなくなり、どのような用事でも、他の人より二倍も三倍も速く
用を足して、涼しい顔をしているのでした。

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